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2050年人口1億人社会の重要資源自立モデル|石油由来資源・レアアース・レアメタルが支える産業・生活基盤の再設計

本記事は、先に公開した「シン資源安保2050の課題構造と探究視覚|資源確保・循環・備蓄を再設計する国家社会基盤の論点」を受け、その補論として位置付けるものです。

前稿では、資源を国家社会基盤の中核テーマとして再定義し、資源の確保、循環、分配、備蓄を統合的に捉える必要性を整理しました。

本稿では、その視点を引き継ぎながら、より具体的に、石油由来資源、レアアース、レアメタルといった「物性を持つ重要資源」に焦点を当てます。これらは、産業活動だけでなく、医療、住宅、通信、移動、日用品など、日常生活を支える基礎にも深く関わっています。

また、前回の補論記事では、水や空気、循環資源を基礎にしたエネルギー・資源自立像を論じました。
今回の記事では、それと重複しないように、未来技術や大きな自立構想よりも、現在すでに日本社会が依存している重要資源の供給リスクと、2050年人口1億人社会に向けた対策に重点を置きます。

本稿で問うのは、すべての資源を国内で自給できるかどうかではありません。
むしろ、外部依存が避けられない中で、どの資源への依存が生活や産業の致命的な弱点になり得るのか、そして代替、循環、備蓄、調達多様化をどのように組み合わせるべきかです。

2050年人口1億人社会における資源自立とは、閉じた自給自足社会を目指すことではなく、医療、住宅、通信、移動、産業活動などの社会維持機能が、外部ショックによって一気に停止しないようにすることです。
本稿では、この視点から、重要資源をめぐる「産業と生活の安全保障」を考えていきます。

目次

本章では、前稿で整理した資源シン安保の全体構造を受けて、本稿が扱う「重要資源」の位置づけを明確にします。
ここで重要なのは、資源自立論を抽象的な理念にとどめず、石油由来資源、レアアース、レアメタルのような具体的な物質資源を通じて、生活と産業を支える構造を読み解くことです。

1)前稿の資源序説で確認した課題

前稿では、資源問題を単なる供給不足や価格変動の問題としてではなく、日本社会の成立条件を左右する国家社会基盤の問題として捉え直しました。
そこでは、資源の確保、循環、分配、備蓄が分断されていること、輸入依存や地政学リスクが高まっていること、さらに資源問題が経済社会構造と生活社会基盤の双方に波及することを確認しました。
⇒ シン資源安保2050の課題構造と探究視覚|資源確保・循環・備蓄を再設計する国家社会基盤の論点 – ONOLOGUE2050

この整理は、資源問題の全体像を把握するうえでは不可欠です。
しかし、全体構造を示すだけでは、読者にとって資源問題がどのように日常生活や産業活動へ及ぶのかが見えにくい面があります。
資源安全保障という言葉は大きな概念ですが、実際には医療用手袋、透析チューブ、建材、包装材、電池、モーター、半導体部材といった非常に具体的な製品を通じて、生活と産業に影響します。

したがって、本稿では前稿の抽象的な構造整理を受け継ぎつつ、より具体的な物質資源に焦点を当てます。
資源問題を「国家が何を輸入しているか」というレベルだけでなく、「どの原材料がどの製品に使われ、それがどの生活機能や産業活動を支えているか」というレベルまで落とし込むことが目的です。

2)今回扱う「重要資源」の範囲

本稿で主に扱うのは、石油由来資源、レアアース、レアメタルです。
これらは性質こそ異なりますが、いずれも現代社会の基礎的な機能を支える、必要不可欠な物質資源です。

石油由来資源は、燃料としての石油だけを意味しません。
ナフサを出発点とする石油化学原料は、プラスチック、合成繊維、合成ゴム、塗料、接着剤、包装材、医療資材、建材など、非常に広い分野に使われています。
したがって、原油やナフサの供給不安は、エネルギー価格だけでなく、医療、住宅、日用品、物流、製造業にまで影響します。

レアアースは、永久磁石、触媒、研磨材、蛍光体、電子部材などに使われる戦略資源です。
特にネオジムやプラセオジムを用いた高性能磁石は、EV、ハイブリッド車、風力発電、産業用モーターなどに関係します。
セリウムやランタンは触媒や研磨材に、ユウロピウムやテルビウムなどは電子・発光材料に関わります。
これらは、脱炭素社会やデジタル社会を支える資源でもあります。

レアメタルはさらに広い領域に及びます。
リチウム、コバルト、ニッケルは蓄電池に、ガリウムやインジウムは半導体や電子部材に、タングステンやチタンは高機能材料や産業機械に関係します。
これらは、通信、医療機器、制御装置、蓄電システム、再生可能エネルギー設備、先端製造業を支える基盤資源です。

本稿では、これらを単なる鉱物資源や化学原料として扱うのではなく、社会維持機能を支える重要資源として捉えます。
どの資源が、どの製品を通じて、どの生活基盤や産業基盤を支えているのかを確認することで、資源安保の実像が見えてきます。

3)水・空気・循環資源論との違い

前回のエネルギー政策補論では、「水と空気、循環資源で支える日本社会は可能か」という問いを立て、2050年人口1億人社会におけるエネルギー・資源自立像を論じました。
そこでは、水素、アンモニア、CO2回収利用、合成燃料、循環資源、地域自立などを含め、比較的大きな社会構想としての自立像を提示しました。

それに対して、本稿では同じ「資源自立」を扱いながらも、視点を変えます。
水や空気を基礎資源化するような近未来構想ではなく、現在すでに日本の産業と生活を支えている重要資源に焦点を当てます。
つまり、近未来技術によって何が可能になるかではなく、現在の社会が何に依存しており、その依存が途絶したときに何が止まるのかを見ます。

この違いは重要です。
近未来型の資源自立論だけでは、構想としては大きくても、現在の弱点・脆弱性が見えにくくなります。
一方で、現在の資源依存だけを列挙しても、将来に向けた再設計の方向は見えません。
本稿では、その中間に立ちます。
現在の重要資源依存を具体的に確認し、そのうえで2050年人口1億人社会に向けて、どのような対策を積み上げるべきかを考えます。

1)産業経済を支える基礎原料

重要資源の第1の特徴は、産業経済の見えにくい、あるいは普段意識されていない基礎原料になっていることです。
石油由来資源は、化学、樹脂、塗料、合成繊維、合成ゴム、包装材、建材などに広く使われています。
レアアースは高性能磁石や触媒、研磨材に使われ、レアメタルは蓄電池、半導体、電子部材、産業機械、高機能材料に使われます。

これらの資源は、最終製品として私たち消費者が、直接それと、目にすることは多くありません。
たとえば、医療用手袋を見ても、それがどの石油化学原料から作られているのかを意識する人は少ないでしょう。
住宅の断熱材や接着剤、家電の部材、スマートフォンや自動車の内部部品についても同じです。
しかし、目に見えないからこそ、供給が止まったときの影響は突然表面化します。

現代の産業は、多段階のサプライチェーンによって成立しています。
原材料があり、中間材があり、部品があり、最終製品があります。
重要資源は、その上流部分に位置することが多いため、供給不安が起きると影響は下流へ連鎖します。
上流のナフサ、レアアース、リチウム、コバルト、ガリウムなどの供給が不安定になれば、それは化学製品、電池、電子部品、医療物資、住宅資材、通信機器などへと波及します。

したがって、重要資源問題は、単なる原材料価格の問題ではありません。
生産計画、納期、在庫、価格転嫁、企業収益、設備投資、雇用、地域産業にまで影響する経済社会構造の問題です。
特に中小企業では、調達余力や価格交渉力が限られるため、原材料不足や価格高騰は生産停止や事業継続リスクに直結しやすくなります。

2)日常生活を支える消費財・生活財

重要資源の第2の特徴は、日常生活にも深く入り込んでいることです。
石油由来資源は、日用品、包装材、衣類、洗剤、家電部材、家具、住宅資材、医療衛生用品などに使われています。
レアメタルやレアアースは、スマートフォン、パソコン、家電、自動車、照明、通信機器、蓄電池、医療機器などに使われています。

つまり、重要資源は工場の中だけにあるものではありません。
家庭、病院、介護施設、学校、交通機関、自治体施設、住宅、通信設備の中に広く組み込まれています。
そのため、資源供給の不安定化は、生活者にとっては品不足、価格上昇、修理遅延、サービス低下という形で現れます。

特に、医療や介護に関わる物資では、影響は深刻です。
医療用手袋、透析用チューブ、カテーテル、注射器、手術用ガウンなどは、いずれも石油化学由来のプラスチックや合成材料と深く関係しています。
これらの供給が不安定になれば、医療機関や介護施設は、診療やケアの継続に不安を抱えることになります。

また、住宅や建築物に関わる資材も重要です。断熱材、接着剤、塗料、防水材、合成樹脂部材などの供給が滞れば、住宅建設、リフォーム、修繕、災害復旧に遅れが生じます。
これは単なる建設業界の問題ではなく、住環境の維持や生活安全の問題です。

このように、重要資源は生活者の目には見えにくいものの、日常生活の安心・安定・安全を支える基盤として、存在しているのです。
したがって、重要資源の供給不安は、産業政策だけでなく、生活社会基盤政策としても扱う必要があります。

3)医療・住宅・通信・移動への波及

重要資源問題を具体的に見るうえで、医療、住宅、通信、移動の4分野は特に重要です。
これらは人口1億人社会においても、停止が許されない生活基盤だからです。

医療分野では、石油由来資源への依存が非常に大きいことに驚かされます。
医療用手袋、透析チューブ、カテーテル、注射器、各種チューブ、包装材、衛生資材など、多くの医療物資にプラスチックや合成ゴムが使われています。
近時の日経記事でも、医療用手袋や透析用チューブの国内生産比率が極めて低く、99%超を海外に頼っている実態が示されています。
これは、原油やナフサの供給不安が、医療現場の物資調達に直結することを意味します。
⇒ 医療物資「自給率」低さ露呈 透析チューブや手袋、1%未満 中東混乱で供給に不安 – 日本経済新聞

住宅分野では、建材や住宅設備が石油化学製品や金属資源に依存しています。
断熱材、塗料、接着剤、防水材、配管部材、樹脂サッシ、床材、電気設備などは、石油由来原料や金属資源と関係しています。
資源供給が不安定になれば、住宅価格の上昇、工期の遅延、修繕の遅れ、災害復旧の長期化が起きる可能性があります。

通信分野では、レアメタルやレアアースが不可欠です。
半導体、電子部品、基板、蓄電池、通信基地局、光通信関連部材、制御装置などには、多様な重要資源が使われています。
通信は現代の生活、行政、医療、防災、金融、物流を支える基盤であるため、資源供給の不安定化は社会全体の運営能力にも影響します。

移動分野では、自動車、鉄道、物流車両、蓄電池、モーター、タイヤ、合成ゴム、電子制御装置などが重要資源に依存しています。
EVやハイブリッド車、再生可能エネルギー設備の普及が進むほど、レアアースやレアメタルの重要性はむしろ高まります。
脱炭素化を進めるためにも、重要資源の安定供給が不可欠になるのです。

このように、重要資源は、現代社会の「見えない骨格」を形成しています。
だからこそ、資源安保は、資源を持つか持たないかだけの問題ではなく、生活と産業のどの機能を止めないかという問題として捉える必要があります。

1)完全な国内自給の非現実性

日本が石油由来資源、レアアース、レアメタルのすべてを国内で自給することは現実的ではありません。
原油についても、レアアースや多くのレアメタルについても、日本国内の鉱山資源や生産能力には限界があります。
石油化学製品の一部を国内で製造していても、その原料となる原油やナフサは海外に依存しています。
レアアースやレアメタルについても、原料鉱石や精製工程を海外に頼る構造が残っています。

したがって、資源自立を完全自給と同一視すると、議論は非現実的になります。
すべてを国内で生産すべきだという主張は、設備投資、コスト、人材、環境規制、技術水準、市場規模の制約を無視していることを意味します。
仮に国内回帰を進めても、採算性がなければ事業は継続できません。
コロナ禍で一部医療物資の国内生産回帰が進んでも、その後に収益維持が難しく、継続を断念した例があることは、この問題の難しさを示しています。

重要なのは、自給率の数字だけを追うことではありません。
どの資源をどの程度国内に戻すべきか、どの資源は国際調達を前提にしながら備蓄や多国調達で守るべきか、どの資源は代替素材やリサイクルで補うべきかを見極めることです。
資源自立とは、すべてを国内化することではなく、止まってはならない機能について、複数の支えを持つことです。

2)輸入依存を前提にした耐性設計

日本にとって現実的なのは、輸入依存を完全になくすことではなく、輸入依存を前提にしながら、それが致命的な弱点にならないようにすることです。
ここでいう耐性設計とは、特定国、特定地域、特定企業、特定ルートに過度に依存しないようにし、供給途絶や価格高騰が起きても、一定期間は社会機能を維持できる状態を作ることです。

そのためには、まず重要資源ごとにリスクの性質を分けて考える必要があります。
石油由来資源では、原油・ナフサの調達、石油化学製品の国内生産能力、輸入製品への依存、医療・建材・日用品への波及が問題になります。
レアアースでは、特定国への集中、磁石や触媒などの重要用途、代替技術の成熟度が問題になります。
レアメタルでは、電池、半導体、通信、制御装置などの先端産業と生活基盤への影響が問題になります。

輸入依存を前提にした耐性設計では、単に在庫を増やすだけでは不十分です。
在庫は重要ですが、在庫だけでは長期的な供給不安に対応できません。
必要なのは、調達先の多様化、国内加工・再資源化能力、代替素材、製品設計の変更、需要の優先順位付け、戦略備蓄、情報共有を組み合わせることです。

特に医療物資のように、人命や生活維持に直結する分野では、価格だけを基準に海外調達を選び続けることのリスクを再評価する必要があります。
平時には安く効率的な調達でも、有事に供給が止まれば、医療体制や介護体制そのものが揺らぎます。
したがって、一定の国内生産能力や備蓄、代替調達ルートは、単なるコストではなく、社会維持のための保険として位置づけるべきです。

3)代替・循環・備蓄の組み合わせ

2050年人口1億人社会に向けた重要資源対策においては、代替、循環、備蓄を組み合わせる必要があります。
どれか一つだけでは不十分です。

代替とは特定資源への依存を下げることです。?
たとえば、コバルト使用量を減らした電池、レアアース使用量を削減した磁石、インジウム代替の透明導電材料、石油由来素材の一部をバイオ由来素材や再生素材へ置き換える取り組みなどが考えられます。
ただし、代替には性能、コスト、安全性、量産性の問題があります。したがって、代替技術は研究開発だけでなく、用途を絞った実装戦略が必要です。

循環とは、国内に存在する使用済み製品や廃棄物を資源として再利用することです。
都市鉱山からレアメタルやレアアースを回収し、廃プラスチックを再資源化し、金属や部材を再生産へ戻す仕組みが重要になります。
ただし、循環も単なる回収運動では成立しません。
分別、回収、再精製、品質規格、再利用先、価格形成、責任分担を一体で設計しなければ、実際の供給源にはなりません。

③ 備蓄とは、供給途絶に備える時間的な安全装置です。?
ただし、備蓄は倉庫に在庫を持つだけでは十分ではありません。
どの物資を、どれだけ、どこに、誰の責任で、どのタイミングで放出するのかを決めておく必要があります。
医療用手袋のように消耗が早く、需要が急増しやすい物資では、国、自治体、医療機関、流通事業者、メーカーが連動した備蓄運用が必要になります。

この3つを組み合わせることで、重要資源自立モデルは現実性を持ちます。
完全自給ではなく、代替できるものは代替し、回収できるものは循環させ、止めてはならないものは備蓄し、輸入に頼るものは調達先を多様化する。
この組み合わせこそが、2050年人口1億人社会に向けて必須の、資源シン安保の実践的な方向です。

本章では、資源問題を単なる供給不足や輸入依存の問題としてではなく、国家社会基盤を支える構造課題として位置づけ、その基本的な捉え方を整理しました。

資源はエネルギー資源に限られるものではなく、石油由来資源、鉱物資源、金属資源、水や食料資源など、多様な形で産業と生活の両方に組み込まれています。
そのため、資源問題は特定分野の問題ではなく、社会全体の機能を支える基盤問題として捉える必要があります。

また、日本は多くの資源を海外に依存している一方で、それらを高度に加工・利用する産業構造を持っています。
この構造は平時には効率的ですが、供給途絶時には脆弱性として顕在化します。

したがって、資源問題は「どこから調達するか」という問題にとどまらず、「どのような構造で依存しているか」「供給が止まった場合に何が起きるか」を前提に再整理する必要があります。
本章は、そのための基本視角を提示するものです。

本章では、石油由来資源を「量」と「構造」の両面から具体的に捉えます。
ナフサを起点とする石油化学原料は、医療、住宅、日用品、製造業の広範な分野に組み込まれており、供給不安は社会機能に直接波及します。
ここでは、国内需要規模、供給構造、原油依存の大きさを数値で確認し、現実的な対策の方向を示します。

1) 日本の主要な石油由来原材料

日本における主要石油由来原材料としては、以下が挙げられます。
① ナフサガソリン系:自動車用ガソリン等
② 軽油系:軽油・灯油・重油
③ 潤滑油基油芳香族溶剤:ベンゼン類・トルエン・キシレン等
④ ナフサクラッキング由来モノマー:エチレン、プロピレン、ブタジエン等

2)燃料用途と非燃料用途の二重構造

石油は燃料としての需要が目立ちます。
前項の①及び②で示されるものですね。
例えばガソリン需要は約4,450万kL、軽油は約3,130万kL規模で、それぞれ数兆円規模の市場を形成しています。

しかし重要なのは、燃料用途と並行して、③や④のように、非燃料用途が存在する点です。
ナフサを起点とする化学用途は、製造業や生活財の基盤を形成しており、こちらは代替が難しい領域です。
燃料は電動化や再エネで代替余地がありますが、化学原料は代替の選択肢が限られます。

3)原材料から製造される「生産財」「消費財」

上記の原材料からは、
生産財:化学中間材、工業用原料、潤滑油、プラスチック原料など
② 消費財:合成樹脂、合成繊維、合成ゴム、塗料、洗剤、燃料など
が製造されます。

例えばナフサはエチレン・プロピレン・ブタジエン・ベンゼン等の基礎モノマーに加工され、最終的にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、合成繊維(ポリエステル・ナイロン等)、合成ゴム(SBR・NBR等)や洗剤などに利用されます。
ガソリン系原料は主に自動車用燃料となり、軽油系はディーゼル燃料や暖房用燃料、重油等に加工されます。
潤滑油基油はエンジンオイルなどに、芳香族溶剤は塗料・接着剤用溶剤などに用いられます。

4)ナフサと石油化学原料の重要性

石油由来資源の中核を成すのがナフサです。
ナフサは原油を精製する過程で得られる軽質油であり、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレンといった基礎化学原料の出発点となります。
これらは単体で消費されるものではなく、さらに加工されて中間材や最終製品へと展開されていきます。

例えば、エチレンやプロピレンはポリエチレンやポリプロピレンといった合成樹脂の原料となり、包装材、容器、家電部材、建材などに広く使われています。
ブタジエンは合成ゴムの原料となり、自動車用タイヤや工業用部材に不可欠です。
ベンゼンやキシレンは合成繊維や樹脂原料に用いられます。

このようにナフサは、石油化学製品の出発点として、産業構造の上流に位置しています。
そのため、ナフサ供給の不安定化は、単一の製品ではなく、多数の産業分野に連鎖的な影響を及ぼします。

5)芳香族溶剤・潤滑油・合成樹脂原料等多様な製品にも

ナフサ由来の基礎化学原料からは、さらに多様な製品が生み出されます。
芳香族溶剤は塗料や接着剤、電子材料に用いられ、建設や製造業、電子産業に不可欠です。
潤滑油基油は自動車や産業機械の運転を支える重要な役割を果たします。

また、合成樹脂はプラスチック製品の基盤となる材料であり、日用品から工業製品まで幅広く利用されています。
これらは単独で存在するのではなく、複数の工程を経て製品として組み込まれるため、供給が滞ると製造全体に影響が及びます。

ここで重要なのは、これらの資源が「代替しにくい中間材」であるという点です。
最終製品であれば代替品が見つかる場合でも、基礎原料や中間材は、製造プロセス全体に組み込まれているため、短期間での代替が難しい場合が多いのです。

6)日用品など・消費財・生活財・医療資材・建材への展開

石油由来資源である石油化学原料は、最終的には生活に直結する製品へと展開されます。
合成樹脂や合成ゴムは、日用品、包装材、衣類、家具、家電、住宅資材などに使われています。
住宅分野では断熱材、接着剤、塗料、防水材、樹脂部材などに広く使用され、供給が滞ると建設や修繕が遅延します。
塗料や接着剤、防水材などは、住宅やインフラの維持に不可欠です。

特に医療分野では、石油化学製品への依存が極めて高いことが特徴です。
医療用手袋、透析用チューブ、カテーテル、注射器などの多くは、プラスチックや合成ゴムを基盤としています。
これらは消耗品であり、継続的・安定的な供給が欠かせません。

このように、石油由来資源は、エネルギー資源としてだけでなく、生活と社会機能を支える基礎資源として位置づける必要があります。

7)ナフサを起点とする基礎化学原料の量的規模

日本の石油製品需要の中で、ナフサは2023年度で約3,610万kL、全体の約23%を占めます。
ナフサはエチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼンなどの基礎モノマーに転換され、そこから合成樹脂、合成繊維、合成ゴムなどへ展開されます。

これらの原料が関与する国内市場規模は、合成樹脂・繊維・ゴムなどを合算すると少なくとも数兆円規模に達します。
単一製品ではなく、多数の産業分野に横断的に関与するため、「一つ止まれば複数の製造工程が止まる」という性質を持ちます。

原材料別主要製品(生産財・消費財)例一覧表

原材料主な生産財例(中間材)主な消費財例(最終製品)
ナフサエチレン、プロピレン、ブタジエン、芳香族炭化水素(ベンゼン・トルエン・キシレン)など合成樹脂(プラスチック)、合成繊維、合成ゴム、合成洗剤、塗料、プラスチック製容器、衣料品、タイヤ、洗剤容器など
ガソリン(主に燃料)乗用車・バイク等の燃料
軽油(ディーゼル)(主に燃料)商用車・トラック・発電用燃料
重油舗装用アスファルト原料船舶用燃料・ボイラー燃料、アスファルト等
潤滑油基油エンジンオイル、ギアオイル、工業用油脂の基材エンジン油、ギア油、工業潤滑油、グリース、機械油、絶縁油など
芳香族炭化水素<br>(ベンゼン・トルエン・キシレン)スチレン(スチレン樹脂・ABS)、キャプロラクタム(ナイロン)、フェノール(樹脂原料)、TDI(ポリウレタン原料)などABSプラスチック製品、自動車部品、電子部品、合成洗剤原料など
エチレン低密度・高密度ポリエチレン、エチレングリコール、塩化ビニル樹脂などプラスチックフィルム、容器、飲料PETボトル(エチレングリコール)、ポリ塩化ビニル製品など
プロピレンポリプロピレン、プロピレングリコール、アクリロニトリル(ABS合成)、プロピレンオキシド自動車部品、家電部品、建材、PP容器・包装材、洗剤・化粧品原料など
その他<br>(イソプレン、LPG等)合成ゴム原料(イソプレン→BR/NBR)、燃料(LPG)タイヤ(合成ゴム)、プロパンボンベ燃料など

各製品の国内年間需要額(最新年ベース)と国内生産比率/輸入比率を、可能な範囲で公的データから抽出・試算した表を以下に挿入しました。
例えば、
自動車用ガソリンの国内需要量は2023年度で約4,450万kL(石油製品全体需要の28.6%)に達し、価格を平均120円/Lと仮定すると需用額は約5.3兆円に相当する。(現状の実勢価格ははるかにその額を20%以上上回っており、7兆円規模に達しているでしょう。)
一方、国内精製能力の削減により需要を若干輸入で補っており、輸入依存度は数%程度(資源エネルギー庁報告によれば製品全体で4.1%)と低い。
・ナフサ(2023年度23.2%シェア)は年間約3,610万kL消費されており、石油化学原料として約3兆円超(プラスチック・合成繊維・合成ゴム等の原料価格累計)と推計される。
エチレン換算では輸出(1,907千トン)よりも輸入(840千トン)が少ない内需主体で、国内自給率は約79%(輸入依存率21%)である。
その他、
・ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート(PET)原料などもナフサ由来モノマーであり、それぞれ数兆円規模の市場を形成するが、PET原料のパラキシレン(PTA前駆体)やテレフタル酸は高い輸入依存(輸入比率90%以上)が報告されている(経産省資料など)。

以下に、各製品の日本国内需要額(最新年)と国内生産比率・海外(輸入)調達比率を示しています。
石油化学工業協会資料等から、主要製品カテゴリーをピックアップしたものです。

品種・製品年間需要額 (百万円)国内生産比率 (%)海外調達比率 (輸入率, %)
汎用合成樹脂(PE/PP/PS等)≈2,800,000≈85%≈30%
合成繊維原料(PET原料、ポリエステル等)≈500,000≈90%≈10%
合成ゴム≈500,000>100%※※<50%
潤滑油製品≈700,000≈90%≈10%
合成洗剤≈300,000≈70%≈30%
塗料・コーティング≈400,000≈60%≈40%
ガソリン燃料≈2,500,000≈75%≈25%
軽油≈2,000,000≈90%≈10%
重油≈800,000≈60%≈40%

資料):資源エネルギー庁「石油製品需給統計」、石油化学工業協会資料等より推計。生産比率は生産量÷(生産量+輸入量−輸出量)で算出した概数(※)。輸入率は輸入量÷内需(生産+輸入−輸出)の比。合成ゴムは日本が輸出超過のため生産比率が100%を超える。

表:主要石油由来原材料と代表製品・需要・自給率・原油換算割合

原材料区分代表製品・用途(生産財/消費財例)国内年間需要額(目安、円)国内生産率 / 輸入率原油必要量(推計)国内供給比率(推計)
ナフサ生産財: エチレン・プロピレン・ブタジエン・ベンゼン等<br>消費財: ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・合成繊維(ポリエステル・ナイロン)・合成ゴム(SBR等)・洗剤等≈3兆円以上(合成樹脂・繊維原料など)自給率 ≈80%(輸入約20%)≈2.4億kL(3,610万kL÷0.15)≈150%(160百万kL想定)
ガソリン系生産財: 自動車用ガソリン<br>消費財: 自動車燃料≈5.3兆円(2023年:約4,450万kL消費×約120円/L換算)自給率高(輸入依存数%未満)≈1.48億kL(4,450万kL÷0.30)≈91%
軽油系生産財: 軽油・灯油・重油<br>消費財: 軽油燃料・暖房用灯油≈3.1兆円(2023年:約3,130万kL×100円/L換算)自給率高(輸入依存低)≈1.57億kL(3,130万kL÷0.20)≈97%
潤滑油基油生産財: 潤滑油基油(極圧油・車両油・工業油など)<br>消費財: 自動車・産業用潤滑油≈0.5兆円程度(推定、粘度調整油含む)おおむね国産(輸入一部)数千万kL(粗製油より抽出、仮に0.3収率)要試算
芳香族溶剤生産財: ベンゼン・トルエン・キシレン等<br>消費財: 塗料・接着剤溶剤、液晶材料等≈0.5兆円程度(ベンゼン類・トルエン類原料相当)自給率高(輸入比率数%)数千万kL(ナフサ由来、仮に0.2収率)要試算
ナフサクラッキング由来モノマー生産財: エチレン・プロピレン・ブタジエン<br>消費財: HDPE・LDPE・PP・ABS・合成ゴムなど≈4兆円以上(ポリオレフィン・合成ゴム市場)自給率中(輸入比率各種約10–20%)ナフサ欄参照同上

1) 海外依存度の高い製品群の実態例

海外依存度が高い製品(例:輸入比率>50%)としては、テレフタル酸(PET樹脂原料)、ブタジエン(合成ゴム原料)などがあります。
その実態は、以下のようになっています。

テレフタル酸は2023年に約286千トン輸入され(輸出微少)、国内供給量の大半を占めており、合成繊維・PETボトル・繊維用途で年間数兆円規模。
国内生産開始には高額な精製設備投資と高度な触媒技術が必要で、短期的には困難な状況(設備投資は数千億円程度、技術はポリエステル技術と同等レベル、完成まで中長期)。
ブタジエンは2024年に輸入49千トン(輸出26千トン)で、輸入依存率は約65%。
合成ゴム用途向けの原料であり、国内合成ゴム製造(合計977千トン)の一部を支えているが、輸入拡大は懸念要因です。
国内生産ラインの整備には石油改質・分離技術や高精度合成設備の導入が必要で、数百億円規模の投資・研究開発が必要です。(期間:中期~長期)。

2)原油換算で見た依存の大きさ

各原材料に対して必要な原油換算量と国内供給比率を推計すると、概算でも生産化学品需要の多くが膨大な原油量を要することが分かります(上表参照)。
例えば、
ナフサ需要約3,610万kLを仮に原油収率15%で算出すると約2.41億kLの原油を必要とし、2023年度の国内石油供給約1.62億kLの150%以上に相当します。
ガソリン需要約4,450万kLを原油収率30%で見ると1.48億kL、国内供給の91%に相当するのです。
軽油需要約3,130万kLを収率20%で見ると1.57億kL(97%)、潤滑油基油や香料・溶剤なども含めれば需要原油量はさらに増大します(計算根拠は各需要量÷収率)。

これは石油化学需要がいかに大きな原油依存構造の上に成立しているかを示しています。
ガソリンや軽油も含めれば、石油需要全体は極めて大きな規模になることも自明です。

3)国内生産と輸入依存の構造

日本は石油精製能力を持ち、ガソリンや軽油の多くは国内で供給していますが、原油そのものはほぼ全量輸入です。
石油化学原料についても、ナフサや基礎モノマーの一部は国内生産されているものの、特定の中間材では輸入依存度が高い分野が存在します。

例えば、ポリエステル原料であるテレフタル酸関連は輸入比率が高く、合成ゴム原料のブタジエンも輸入依存が拡大しています。
これらは一見すると部分的な問題に見えますが、特定分野の供給が止まれば、関連製品の生産全体に影響が及びます。

4)国際供給網と地政学リスク

石油由来資源の供給は、原油輸入、精製、化学加工、最終製品供給という多段階の国際供給網で成立しています。
中東情勢の不安定化は原油供給に直接影響し、その影響は東南アジアの製造拠点を経由して、日本の医療・製造・生活分野に波及します。

実際に、医療用手袋や透析用チューブのように、輸入依存度が極めて高い製品では、供給不安が顕在化しています。
これは単なる物流問題ではなく、原材料供給と製造拠点の国際分業構造の問題です。

5)建材・住宅・インフラ整備への影響

石油由来資源の供給不安は、まず建設・インフラ分野に現れます。
断熱材、接着剤、塗料、防水材、樹脂部材などの供給が滞ると、住宅建設やインフラ整備に遅延が生じます。

建設は複数の資材が揃って初めて進むため、一部の資材不足でも工事全体が停止する可能性があります。
このため、原材料の供給問題は、工期の遅延やコスト上昇として顕在化し、住宅価格や公共投資にも影響を及ぼします。

6)医療物資への影響と供給構造の脆弱性

医療分野では、石油由来資源の供給不安がより直接的な影響を持ちます。
医療用手袋や透析用チューブのように、国内生産比率が極めて低く、ほとんどを海外に依存している物資では、供給不安がそのまま医療現場の運営に影響します。

中東情勢の不安定化に伴う原油・ナフサ供給の制約は、東南アジアの生産拠点にも影響を及ぼし、日本への供給にも波及します。
その結果、小規模医療機関を中心に、手袋などの確保が困難になる事例が生じています。

ここで明らかになるのは、医療物資の問題が単なる流通の問題ではなく、石油化学資源への依存構造と国際供給網の問題として成立しているという点です。

7)日用品・消費財への波及

石油由来資源の供給制約は、日用品や消費財にも波及します。
包装材やプラスチック製品、洗剤、衣類などは、石油化学製品に依存しているため、供給不安や価格上昇の影響を受けやすい分野です。

これらは生活に不可欠な製品であるため、供給の不安定化は、品不足や物価上昇として現れます。
特に代替が難しい製品では、生活の質そのものに影響を及ぼします。

1)国内生産能力と技術的基盤

日本は石油化学コンプレックスを有し、エチレン、プロピレンなどの基礎化学品を生産する能力を持っています。
また、高機能樹脂、特殊材料、精密化学品などの分野では高い技術力を保持しています。

この点は重要で、すべてを海外に依存しているわけではありません。
問題は、原料段階の資源と、一部の中間材における依存の高さです。
したがって、日本の強みは「高付加価値加工能力」にあり、これをどう活かすかが鍵になります。

2)国産化の限界と現実的判断|高輸入依存品種の国内生産移行可能性

一方で、すべての石油化学原料を国内で賄うことは現実的ではありません。
石油由来資源の供給不安に対して、国内生産への回帰が議論されることがありますが、実際には多くの制約があります。

テレフタル酸、ブタジエン、プロピレン誘導芳香族(溶剤用トルエンなど)のように輸入依存度が高い原料・製品については、国内で新規生産設備を立ち上げるには巨額投資と長期の技術開発が必要となります。

例えばテレフタル酸自給には数千億円規模の精製設備と高純度技術が要求され、実現まで長期間を要します。
一方、ブタジエンや芳香族溶剤は既存石油化学コンプレックス内で部分的に新設可能な場合もありますが、市場規模と輸入減少効果を勘案すると投資回収には大きな課題があります。
原料供給の安定性、環境規制・安全規制への対応、サプライチェーン多元化、採算性なども含め、移行には慎重な経営判断が求められます。(設備投資規模例: 数百〜数千億円、技術レベル: 世界標準以上)。

したがって、国産化は選択的に行う必要があります。
医療、インフラ、生活維持に直結する分野については、一定の国内生産能力や備蓄を確保する一方で、その他は国際分業を前提とするという切り分けも必要と考えるべきでしょう。
また、既に国際分業が進んでいる分野では、国内生産を再構築してもコスト競争力を維持することが難しく、事業として成立しない可能性があります。

3)代替・循環・備蓄の組み合わせ|代替素材・再生資源の活用と供給調整の必要性

現実的な対策は、代替、循環、備蓄の組み合わせです。
代替素材や再生資源の活用が重要になります。
バイオマス材料やリサイクルプラスチックの活用は、石油依存の一部を緩和する手段となります。
また、廃プラスチックの再資源化やケミカルリサイクルは、国内資源としての役割を持ち得ます。

石油由来資源については、備蓄と供給調整の仕組みも重要です。
備蓄については、原油だけでなく、医療資材や重要中間材についても検討が必要です。
ただし、これらも万能ではなく、品質、コスト、供給量の面で制約があります。
特に医療物資のように、需要が急増しやすく、供給が途絶した場合の影響が大きい分野では、戦略的な備蓄と優先配分の仕組みが不可欠です。
単に在庫の積み増しや保管・管理だけでなく、用途別の優先配分を含め、どの分野にどの程度配分するかという判断基準をあらかじめ設計しておくことが求められます。

本章では、石油由来資源を取り上げ、エネルギーとしての側面だけでなく、化学原料として産業と生活に深く組み込まれている実態を明らかにしました。

ナフサを起点とする石油化学製品は、医療用品、建材、日用品、電子部材など広範な分野に使用されており、現代社会はこれらの供給なしには成立しません。
したがって、石油由来資源の問題はエネルギー問題とは別に、生活基盤と産業基盤の両方に直結する問題として捉える必要があります。

また、日本は原油をほぼ全量輸入に依存しており、その供給は中東地域に大きく偏在しています。
加えて、石油化学製品の一部では原材料や中間材の輸入依存も高く、供給網の複雑化とともにリスクが拡大しています。

このように石油由来資源は、量的規模が大きく、代替が困難で、供給途絶時の影響が広範囲に及ぶ資源であり、資源シン安保の中核的課題として位置づけられます。


本章では、石油由来資源に続き、レアアース(希土類元素)を取り上げます。
レアアースは使用量としては限定的でありながら、現代の産業構造において不可欠な機能資源です。
とりわけ自動車、電機、電子機器、再生可能エネルギー分野において不可欠な役割を果たしており、供給が途絶した場合の影響は極めて大きい領域です。
本章では、世界の用途・供給構造とリスク、日本の需要構造・依存構造、産業への影響、そして中長期的な対策としての代替・循環の可能性を含め、具体的な数値と現実動向を踏まえて対応を整理・検討します。

まず初めに、レアアースとは何か、最も基本的な知識としての種類と用途について、確認します。
レアアース(=希土類)とは、
ランタン(Lanthanum)からルテチウム(Lutetium)まで15種類とイットリウム・スカンジウムの計17種類の元素の総称です。
磁石用途のNd・Pr、触媒用途のCe(セリウム)・La(ランタン)、蛍光体用途のEu・Tbなどが重要資源です。
精製されたレアースは、ごく少量を加えるだけで製品の性能を大きく向上させるため、ハイテク産業を強固に支えるものとして「産業のビタミン」とも称されています。

1)主要なレアアースの種類と機能

①ネオジム・プラセオジムと永久磁石
レアアースの中でも、ネオジムやプラセオジムは高性能永久磁石の原料として重要です。
これらの磁石は、小型で強力な磁力を持つため、電動モーターに不可欠な部材となっています。
具体的には、電気自動車やハイブリッド車の駆動モーター、産業用ロボット、工作機械、エアコン、冷蔵庫、洗濯機など、多くの機器に組み込まれています。
また、風力発電設備にも使用されており、再生可能エネルギーの普及とも密接に関係しています。

このように、ネオジム磁石は単なる部品ではなく、「電動化」と「省エネルギー化」を支える基礎資源として位置づけられます。

②セリウム・ランタンと触媒・研磨材
セリウムやランタンは、触媒や研磨材として広く使用されています。
自動車の排ガス浄化装置に用いられる触媒は、環境規制に対応するために不可欠であり、ここにもレアアースが使われています。
また、セリウム系の研磨材は、液晶ディスプレイや半導体製造工程で用いられるガラス研磨に不可欠です。
スマートフォンやテレビ、コンピュータといった電子機器の製造において、これらの材料は欠かせません。

つまり、レアアースは環境対応とデジタル機器の両方を支える資源として機能しています。

③ユウロピウム・テルビウム等と電子材料
ユウロピウムやテルビウムなどは、蛍光体や発光材料として使用され、照明やディスプレイに利用されています。
LED照明や各種ディスプレイの性能は、これらの材料によって支えられています。

この分野では使用量自体は多くありませんが、代替が難しく、供給が止まると製品性能や製造そのものに影響が及びます。
したがって、量的には小さくても、機能的には重要な資源です。

2)用途別使用量と市場規模

レアースの用途は大きくは「永久磁石」「触媒・研磨剤」「蛍光体・セラミック」「電池・合金」等に分けられます。
例えば
・Nd(ネオジム)・Pr(プラセオジム)は自動車モーターや風力発電用磁石に使用され(磁石用途)、
・Ce(セリウム)は自動車排ガス触媒やLCDガラス研磨剤に、
・Eu(ユウロピウム)・Tb(テルビウム)は照明・ディスプレイ用蛍光体に用いられます。

その中で、主要な3種類のレアアース用途は以下です。
① 永久磁石用途:ネオジム・プラセオジムを中心に全体の30~40%を占めます。自動車モーターや風力発電などに使用され、市場規模は数千億円規模と推計されます。
② 触媒・研磨材用途:セリウムやランタンが中心となり約40%を占めます。自動車排ガス浄化やガラス研磨などに用いられます。
③ 蛍光体・電子材料用途:ユウロピウムやテルビウムなどが使用され、全体の10%程度ですが機能的重要性は高い領域です。

ここでは、最も注視すべき、レアアースの日本国内における需要と供給の構造を確認します。

1)国内需要の現状

日本には希土類鉱山がほぼなく、原料は輸入依存度が極めて高いため、国内供給量=輸入という状況が続いています。
2024年の日本国内需要実績によれば、合計18,835トン(前年比+14.6%)で、
その内訳は元素別にセリウム 5,650t、ランタン 1,490t、ネオジム+プラセオジム 5,500tなどとなっています。

用途別内訳の推計については、一般に輸出入統計等から
・磁石用が使用量の30–40%、
・触媒・研磨剤用で約40%、
・蛍光体・コンデンサ用で10%程度をそれぞれ占めているとされます。

2)国内供給の現状

供給については、国内鉱山が存在しないため、原料はほぼ100%輸入に依存しており、国内需要とほぼ同量です。
国内では数社が各種希土類製品(CeO₂、酸化NdPr、永久磁石、合金、研磨剤など)を生産してますが、原料はすべて輸入です。

2024年は中国の輸出管理強化等で一時輸入減が見られたのですが、全量を輸入で賄っている状況には変わりはありません。
また業界団体報告では、Ce系研磨材や自動車触媒用材料は再編や外部調達が進行しており、一部国内生産者は輸出停止等により操業調整を余儀なくされています。

使用量に対する国内生産額(円換算)も需要とほぼ比例し、
2024年時点で
磁石材料の市場規模は数千億円(Nd磁石自体の製造額)、
・触媒・研磨剤用Ce系材料は数百億円程度、
・蛍光体用は数十億円程度と推計されます。

国内の用途別需要(使用量)と供給(輸入/国内生産)状況の例を以下の表にしてみました。

用途需要量(2024年, t-REO)供給(国内生産t / 輸入t)
永久磁石用(Nd-Pr系列)≈5,5000 / ≈5,500
自動車触媒・研磨剤用(Ce, La系列)≈6,0000 / ≈6,000
蛍光体・セラミック用(Eu, Y, Tb etc.)≈2,0000 / ≈2,000
その他(コンデンサ用Sm,Ni等)≈5,3000 / ≈5,300
合計≈18,8350 / ≈18,835

注:国内生産は希土類鉱石自体の生産はなく、加工加工品(酸化物など)のみ。一部リサイクル投入あり。

4)産業構造への組み込み

レアアースは自動車、電機、電子、エネルギーなどの基幹産業に深く組み込まれています。
電動化の進展により、モーター需要は増加しており、ネオジム磁石の重要性はさらに高まっています。
風力発電や産業ロボットでも同様です。

また、半導体製造やディスプレイ、通信機器などの分野でも不可欠であり、日本の輸出競争力にも直結しています。

第3節では、グローバル社会におけるレアアースの供給構造を、顕著な特徴である集中という観点から、整理します。

主要生産国と2023年生産量・埋蔵量(米USGS資料)を下表に示しました。

国・地域2023年生産量(トン・REO換算)埋蔵量(トン・REO換算)
中国≈270,000≈44,000,000
米国≈45,000≈1,900,000
オーストラリア≈12,00027,000,000
ミャンマー・印度≈30,000(推定)インド:約6,900,000
ベトナム≈5,000≈22,000,000
ロシア≈2,500≈3,800,000
その他(ブラジル等)約5,000ブラジル:約21,000,000
世界計≈380,000約120,000,000

出典:USGS「Rare Earths」による(生産量は2023年実績、埋蔵量は同推定値)。

1)生産量・埋蔵量の分布と偏在性

レアアースの世界生産量は2023年時点で約38万トン(REO換算)であり、そのうち中国が約27万トンを占め、約7割という圧倒的なシェアを持っています。
米国は約4.5万トン、オーストラリアは約1.2万トンと続きますが、中国との差は大きいままです。

一方で、埋蔵量ベースでは、中国約4,400万トンに対し、オーストラリア約2,700万トン、ベトナム約2,200万トン、ブラジル約2,100万トンなど、他地域にも相応の資源は存在しています。
つまり、資源そのものが中国にしかないわけではありません。

2)問題の本質は、中国1国への「精製・加工能力の集中」

しかし現実の供給構造を決定しているのは、鉱山の埋蔵量ではなく、「採掘→分離→精製→材料化→製品化」という工程全体の集積です。
この工程の大部分が中国に集中しているため、結果として供給力が中国に依存する構造が形成されています。

レアアースは鉱石からそのまま利用できる資源ではなく、化学的分離や精製工程を経て初めて利用可能になります。
この工程は環境負荷も大きく、技術的にも難易度が高いため、他国で短期間に代替することは困難です。

3)進み始めた供給網再構築の動き

ただし、この構造は固定されたものではありません。
オーストラリアのLynasは、中国外での採掘・分離能力を拡張しており、日本企業との長期契約も行われています。
米国でも国内精製能力の回復を目的とした政策支援が進められています。

また、ブラジルやベトナムなどでも新規開発案件が進行しており、供給源の多様化に向けた動きが徐々に進んでいます。
日本もJOGMECを通じて資源権益確保や共同開発を進めています。

現時点では中国依存構造は大きく変わっていませんが、2050年までのスパンで見れば、「完全依存からの段階的離脱」は現実的な政策目標となり得ます。

1)国内鉱山不在と輸入依存

日本にはレアアース鉱山がほとんど存在せず、原料はほぼ全量を輸入に依存しています。
国内では加工や製品化は行われているものの、その前段階の原材料供給は海外に依存しているのが実態です。

この構造は、石油由来資源以上に輸入依存度が高く、供給の安定性が外部要因に強く左右されることを意味します。

2)特定国依存と地政学リスク

レアアースの供給は、中国を中心とする特定国に集中しています。
生産量、精製能力ともに中国の比重が高く、輸出管理や政策変更の影響を受けやすい構造です。

過去にも輸出規制が行われた経緯があり、供給リスクが顕在化したことがあります。
このような状況は、価格の変動だけでなく、供給そのものの不確実性を高めます。

3)産業への波及、生産停止リスク

レアアース供給が途絶すると、最も直接的な影響は製造ラインの停止です。
モーターや電子部品の供給が止まれば、完成品の生産が停止します。
特に自動車産業や電子・電機産業では、部品の一部でも欠けると生産が成立しないため、影響は広範囲に及びます。

4)価格高騰と産業競争力への影響

供給制約は価格上昇を招きます。
レアアース価格の変動は、製品コストに直接影響し、企業収益や国際競争力に影響を与えます。

5)生活への間接的波及

レアアースは直接消費されることは少ないものの、その影響は生活にも波及します。
家電製品・自動車の供給・納期遅延や価格上昇、再生可能エネルギー設備の導入遅れなど、直接・間接的に生活基盤に影響します。

1)希土類使用量削減と代替技術

レアアースに対する依存を低減するために、使用量削減や代替技術の開発が進められています。
例えば、ネオジム使用量を減らした磁石や、希土類を使わない磁石の研究が進んでいます。

ただし、性能やコストの面で完全な代替は難しく、用途によっては依然としてレアアースが不可欠です。

2)用途別代替の現実性

触媒や研磨材、電子材料についても代替材料の研究が進んでいますが、すべての用途で置き換えが可能なわけではありません。特に高性能が求められる分野では、代替材料では性能が不足する場合があります。

したがって、代替は万能の解決策ではなく、用途ごとに適用可能な範囲を見極める必要があります。

3)リサイクルと国内回収の課題

レアアースは使用済み製品から回収することが可能ですが、回収・分離・精製のコストや技術的難易度が高く、十分な供給源として機能しているとは言えません。

製品に分散して含まれているため、効率的な回収システムの構築が課題となります。また、回収しても品質やコストの面で新規資源に対抗できない場合もあります。

4)代替品の現状

希土類の使用を減らす代替技術として、以下が研究・開発テーマとなっています。
 ① 磁石材料では代替鉄系磁石の開発(例えばNdFeBからフェライト・アモルファス磁石への切替え)やNd量低減化技術、
 ② 触媒ではCeO₂代替のナノ構造材料、
 ③ 研磨剤ではセリウム研磨代替のアルミナ系研磨材、
 ④ 蛍光体ではEu非含有のLED用材料

日本企業・研究機関の事例では、NEOMAX等が希土類フリー磁石の実用化を推進し、大阪大学などはCe代替触媒材料の研究を行っています。
これら代替品はまだ性能面やコストで限定的な適用に留まり、今後も技術開発と普及が求められます。

5)中長期的対応戦略

代替・削減・循環を含め、中長期的視点で、レアアースの供給戦略を想定した時の主な課題を以下に整理します。

① 調達多様化と国際連携:オーストラリア、米国、東南アジアなどとの連携強化により、供給源を分散することが重要な課題となります。
長期契約や共同開発が鍵となります。
② 国内加工能力の維持:精製・加工能力を国内または友好国圏に確保することが重要です。
資源そのものよりも、加工能力の確保が供給安定性を左右します。
③ 代替技術と使用量削減:ネオジム削減磁石や希土類フリー材料などの開発が進められていますが、完全代替は難しく、用途は限定的です。
④ リサイクルと備蓄:都市鉱山の活用や戦略備蓄により、供給途絶への耐性を高める必要があります。ただし、リサイクルは補完的手段にとどまります。

本章では、レアアースを対象に、少量でありながら産業機能を支配する資源の特性と、その供給構造の偏在性を整理しました。

レアアースはモーター、電子部品、触媒などに不可欠であり、特に電動化やデジタル化の進展に伴い、その重要性は一層高まっています。一方で、生産および精製工程は特定地域、特に中国に強く集中しており、供給網全体としての依存構造が形成されています。

この構造は、単なる資源の偏在ではなく、「採掘・精製・供給網の一体的集中」によるものであり、短期的な代替が困難であるという特徴を持ちます。

また、日本は原料をほぼ全量輸入に依存しており、供給制約は製造業、電子産業、エネルギー分野に直接的な影響を及ぼします。
したがってレアアース問題は、量ではなく機能によって社会を支配する資源の問題であり、資源シン安保における構造的リスクの典型例として位置づけられます。

代替技術やリサイクルへの取り組みも進展してはいますが、現時点では完全な解決策にまでには至っていません。
ただ、加えて、供給網再構築や調達多様化の動きは始まっており、2050年までの時間軸では依存度低減の余地があります。
レアアース問題は、単に供給量の問題ではなく、産業構造と技術体系に深く組み込まれた資源依存の問題として捉え、継続的に、戦略的に取り組む必要があります。
重要なのは、資源そのものではなく、精製・加工・供給網を含めた構造をどう再設計するかです。


本章では、レアメタルを電池・電子・産業材料の中核資源として位置づけ、その世界供給構造・日本の依存実態・具体的影響を数値で把握し、2050年に向けた現実的対応を検討します。

本章第1節では、主要レアメタルの供給構造を、生産量・埋蔵量・地域偏在の観点から具体的に整理します。

1)主要レアメタルの分類と規模

レアメタルは経産省指定で30鉱種以上に及びますが、特に重要なのは電池・電子・高機能材料に直結する資源です。
代表例と2023年前後の世界生産規模は以下の通りです。
・リチウム:約18万トン
・ニッケル:約360万トン
・コバルト:約23万トン
・タングステン:約7.8万トン
・ガリウム:約600トン
・インジウム:約1,000トン

ここで重要なのは、ニッケルなどは量が大きい一方で、ガリウムやインジウムのように「量は小さいが不可欠」という資源が混在している点です。
後者は供給が止まれば即座に産業停止に直結します。

2)生産国シェアと偏在構造

レアメタルは、以下のように、極端な地域集中を特徴とします。
・コバルト:コンゴ民主共和国 約70%
・ニッケル:インドネシア 約50%超(急増中)
・リチウム:オーストラリア・チリ・中国で約80%
・タングステン:中国 約80%
・ガリウム:中国 約90%以上
・インジウム:中国・韓国・日本が中心だが原料は中国依存

つまり、多くのレアメタルで「単一国依存」に近い構造が成立しています。

3)精錬・加工工程支配集中の現実

さらに重要なのは精錬工程です。
・リチウム精製:中国 約60〜70%
・コバルト精製:中国 約70%以上
・ニッケル精錬:中国+インドネシア主導
・ガリウム・インジウム:ほぼ中国主導

つまり「採掘+精製+供給網」が一体で特定国に集中しています。
この構造により、単に資源が他国にあっても、短期的には供給を代替できません。

この節では、レアメタルがどの分野で使用され、日本の産業にどのように組み込まれているかを具体的に示します。

1)電池・エネルギー分野での使用

リチウム、コバルト、ニッケルはリチウムイオン電池の主要材料であり、EVの普及により需要が急増しています。
EV1台あたりの必要量の目安は次の通りです。
・リチウム:約8〜10kg
・コバルト:約5〜10kg
・ニッケル:約30〜50kg
世界のEV市場拡大により、これら資源の需要は2030年までに2〜4倍規模に増加すると予測されています。
日本は電池製造では強みを持つものの、原料はほぼ100%輸入です。

2)電子・半導体分野での使用

・ガリウム:パワー半導体(GaN)
・インジウム:液晶・ディスプレイ(ITO電極)
日本のインジウム消費は年間約300トン規模とされ、ほぼ全量輸入に依存しています。
ガリウムも中国依存が極めて高く、輸出規制が実際に発動された資源です。

3)産業材料分野における利用

・チタン:航空機・建設・医療
・タングステン:超硬工具・切削工具
これらは製造業の基盤材料であり、供給制約は生産能力に直結します。

4)日本の供給構造

日本は、レアメタル鉱山をほぼ持たず、
・原料:ほぼ100%輸入
・加工:一部国内
・製品:高付加価値領域に強み
という構造を持っています。
つまり「上流完全依存・中流一部・下流強い」という典型的上流依存型の産業構造です。

ここでは、リチウム、ニッケル、コバルト、チタン鉱、タングステン、ガリウム、インジウム、7つの主要レアメタルの2023年の生産量、主産国、埋蔵量、主埋蔵国とシェアを一覧表化しました。

ここでは、レアメタル供給制約が産業・経済・生活に与える影響を具体的に示します。

1)電池・自動車産業への影響

コバルトやニッケルの供給制約は電池価格に直結し、EV価格の上昇要因となります。
実際に2021〜2022年にはコバルト価格が急騰し、電池コストに影響しました。
これは単なるコスト問題ではなく、脱炭素政策そのものの進行を左右する要因です。

2)半導体・電子産業への影響

2023年の中国によるガリウム・ゲルマニウム輸出規制は、半導体材料供給の脆弱性を顕在化させました。
これは日本にとっても他人事ではなく、電子産業全体に影響する問題であり、電子部品供給のボトルネックとなる可能性があります。

3)製造業全体への波及

タングステンなどの供給制約は工具供給に影響し、結果として製造全体の生産性低下を招きます。
つまり、レアメタルは「見えないが止まると全部止まる資源」です。

この節では、現実的に取り得る対応策を、限界も含めて整理します。

1)調達多様化と資源外交

日本はすでに
・オーストラリア(リチウム)
・カナダ
・東南アジア
との資源協力を進めています。
ただし、規模的には中国依存を代替するには不十分です。

2)代替技術の現状・現実

代替品として、研究あるいは開発が行われている事例としては、以下があります。
ニッケル鋼には低ニッケル鋼や高クロム鋼、チタン合金が利用可能
コバルトの電池内含有削減(LFP化)の研究
磁石のフェライト系の検討
リチウム電池の代替として鉄リン酸リチウム(LFP)電池の普及
ガリウム半導体向けOLEDや硅素微細化の研究
・インジウムITO向けアンチモン錫酸化物やカーボンナノチューブ、PEDOTなどの研究

以上のように、LFP電池(コバルト削減)化、低ニッケル電池化、非レアメタル材料化などが進んでいますが、性能・コスト・量産性の制約があり、全面代替は困難です。

3)都市鉱山とリサイクル|資源循環のモデル構築を

日本は「都市鉱山大国」と言われ、
・使用済み電子機器
・車載電池
からの回収が進んでいます。
ただし供給全体の数%〜10%程度にとどまり、主供給にはなりません。
しかし、3R、リサイクル・リユース・リデュースの必要性は、レアアース、レアメタル共通の課題であり、持続的な取り組みが不可欠です。
資源循環のモデルを日本が創り上げ、グローバル社会に還元していくことが望ましいと考えます。

4)備蓄と優先順位設計

最も現実的なのはここです。
・国家備蓄
・産業別優先配分
つまり「どの産業を止めないか」を決める設計が必要になります。
3Rへの取り組みも、この備蓄政策の後押しとなるものです。

本章では、レアメタルを取り上げ、電池、電子材料、産業用材料を支える基盤資源としての役割と、その供給構造を整理しました。

リチウム、コバルト、ニッケル、ガリウム、インジウムなどのレアメタルは、EV、半導体、通信機器、製造装置などに不可欠であり、現代産業の中核を構成しています。これらは使用量が限られていても代替が困難であり、供給制約が即座に産業活動に影響を与える特徴を持ちます。

供給面では、特定国への生産集中に加え、精錬・加工工程も一部地域に偏在しており、資源問題は供給網全体の構造問題として現れています。また、日本は原料をほぼ全量輸入に依存しており、上流依存型の産業構造を持っています。

このためレアメタル問題は、電池産業、電子産業、製造業全体に波及する基盤的リスクであり、価格変動や供給制約を通じて経済社会構造にも影響を及ぼします。

したがって、本章で扱ったレアメタルは、石油由来資源やレアアースと並び、資源シン安保における重要な構成要素として位置づけられます。



最終章では、本稿で扱った石油由来資源・レアアース・レアメタルの分析を統合し、資源問題を国家社会基盤として再定義するとともに、後続の政策テーマとの関係性を明確にします。

初めに、資源問題を「確保・循環・分配・備蓄」の4つの機能として整理し、その分断構造と課題を明らかにします。

1)確保・循環・分配・備蓄の分断

資源問題は本来、確保(調達)、循環(再利用)、分配(供給)、備蓄(時間対応)の4機能が統合されたシステムとして捉える必要があります。
しかし現実には、
・確保=海外依存(資源外交)
・循環=個別技術(リサイクル)
・分配=市場任せ(サプライチェーン)
・備蓄=限定的制度
と、それぞれが分断された状態で運用されています。
この分断が、供給ショック時の対応力を低下させています。

2)供給リスクと時間軸の欠如

資源問題のもう一つの本質は「時間」です。
供給が止まった瞬間に影響が出る構造でありながら、備蓄や代替の時間軸が十分に設計されていません。
医療物資や石油化学製品の例が示すように、短期的には在庫で対応できても、中期的には供給制約が顕在化します。
この時間構造への対応が極めて弱いことが、現在の資源安保の大きな欠陥です。

本節では、資源利用が国土・産業構造とどのように不整合を起こしているかを整理します。

1)国土構造と資源利用のミスマッチ

日本は資源を持たない一方で、資源消費型の産業・生活構造を維持しています。
都市集中型の生活は効率性を持つ一方で、物流途絶時の影響が大きく、地方では逆に供給網の脆弱性が顕在化します。
つまり都市・地方のいずれにおいても、資源供給への依存は不可避であり、その脆弱性は共通しています。

2)産業構造と資源依存の不整合

製造業は高付加価値化が進む一方で、基礎資源は外部依存のままです。
石油化学、レアメタル、レアアースいずれも、上流依存・下流競争という構造が共通しています。
この構造は平時には効率的ですが、有事には極めて脆弱です。

ここでは、資源問題が経済構造全体にどのように関与しているかを明らかにします。

1)産業競争力と資源制約

資源供給は製造業の生産能力を規定します。
特に中間材やレアメタルは代替が困難であり、供給制約はそのまま産業競争力の低下につながります。
これは単なるコスト問題ではなく、「生産できるかどうか」の問題です。

産業経済の持続性と成長性を保つ上で、こうした資源制約条件を、どのように克服していくか。
産業界と関係する企業自体の努力も当然必要ですが、国家の責務としても、資源制約に取り組む中長期視点での政策を戦略レベルに位置付けていく。
シン安保2050における「資源シン安保政策」が、国家社会基盤と経済社会構造を横断することを、ここで確認したいと思います。

2)価格変動と経済安定性

資源価格の変動は企業収益だけでなく、物価全体に波及します。
石油化学製品や電子部品の価格上昇は、最終的に消費者物価に反映されます。
資源問題はインフレや経済安定性とも直結しています。

今度は、資源問題が生活基盤にどのように影響するかを確認します。

1)医療・生活物資への直接影響

医療用手袋やチューブの例が示すように、資源供給の不安は生活基盤に直接影響します。
これは災害時と同様の構造であり、供給途絶は即座に生活問題となります。
これは、単純に物流問題に起因するものではありません。
日常生活における安全・衛生・健康に関する消費財が、製造段階での供給制約に端を発して、一気に途絶することになるのです。
こうした製品の例は、ほんの一握りであり、ここまで見てきたように、石油由来原料、レアアース、レアメタルという、ほとんどわが国が保有できない「資源」が原因です。

2)生活コストと供給不安

石油化学製品や電子製品の価格上昇は生活コストの上昇として現れます。
これは単なる価格問題ではなく、生活の持続可能性に関わる問題です。

産業界と事業活動主体等の経済社会構造への国家(社会)からの関与。
これと同様に、個人・家族・世帯および種々の社会の社会生活基盤を脅かす要因となる「資源供給」途絶。
そのリスクは、今後も常にあると考える必要があります。
こうしたリスクの発生を未然に防ぐこと、万一発生した折りの迅速かつ適切な対応とその統括。
過去にはコロナ禍での経験や多発する自然災害時の対応。
これらの原因は様々ですが、発生するリスクは、ほとんどが想定可能になってきていますし、想定・想像すべきでもあります。
資源シン安保は、エネルギーシン安保と同様、国家社会基盤の重要政策・戦略課題であることは、十分理解できたと思います。

ここで、資源問題を他の政策領域へ接続し、今後の検討方向を確認します。

1)「国土・自然環境・防災」シン安保との関係

資源問題は国土条件と密接に関係します。
可住地、災害リスク、地理条件は資源供給に直接影響します。したがって、防災は資源供給安定の問題でもあります。

2)「公共インフラ」シン安保との関係

資源はインフラを通じて供給されます。
水、電力、物流、通信などは資源分配システムそのものであり、その再設計が必要です。

3)「食料」シン安保との関係

食料は資源問題の最終形であり、水、土地、エネルギーと密接に結びついています。
資源循環の中で食料問題を捉える必要があります。

(参考):シン安保2050【3社会基盤別政策課題一覧表】

1. 国家社会基盤シン安保2. 生活社会基盤シン安保3. 経済社会構造シン安保
エネルギーシン安保① 人口・少子高齢化・世代シン安保① 雇用・労働/賃金・所得シン安保
資源シン安保② 結婚・家族・世帯シン安保② 労働力シン安保
(外国人労働・AI代替・人材育成・労働保険等シン安保含む)
国土・自然環境・防災シン安保③ 出産・子育て・保育シン安保経済安全保障シン安保
公共インフラシン安保④ 教育・スキリング・生涯設計シン安保 産業経済・企業格差シン安保
 (中小企業シン安保含む)
食料シン安保⑤ 医療・健康・公衆衛生・介護シン安保⑤ 金融・資本市場・税制シン安保
⑥ 財政シン安保⑥ 社会保障シン安保(年金・生活保護・障害者福祉シン安保含む⑥ AI/AX・デジタル経済・イノベーションシン安保
⑦ 先端技術シン安保(情報・デジタル情報リスク・サイバー統治シン安保含む)⑦ 地方自治・地域社会生活シン安保
(都市・地方生活シン安保含む)
⑦ 企業統治・事業経営・CXシン安保
防衛・外交シン安保⑧ 治安・情報市民社会・AI社会シン安保貿易・観光シン安保
⑨ 統治制度(政治・立法・行政・司法)シン安保日常生活シン安保
(消費・居住・健康・移動他)
グローバル経済シン安保
ベーシックインカムシン安保ベーシックインカムシン安保ベーシックインカムシン安保

前3項いずれも、上表にある<シン安保2050>の国家社会基盤の重点10政策の中の課題です。
どれも「資源」としての性質を持つものとして、ここで並列的に関係性を述べ、次以降の記事課題とすることを確認しました。

4) 防衛・外交シン安保、統治制度シン安保との連係

しかし、本稿で取りあげた「供給途絶」リスクを抱えたグローバル経済における「資源」問題の改善や対応には、貿易問題のみならず、地政学的・政治体制上の問題が介在し、「外交」が、非常に重要な位置を占めることになります。
ただ、外交も、非常時・緊急時に慌てて対策を考えるのではなく、平時においてこそ、中長期戦略と実践力のあり方が問われているのです。
まさに、「統治制度」における政治のあり方が常にアプデートされ、シン安保としての機能強化が図られる必要があるのです。

5)社会的共通資本・循環型社会との接続

元々、シン安保2050は、シン日本社会2050という統合理念構成・形成する理念グループの一つです。
そこでの資源シン安保は、シン社会的共通資本2050の構成要素としても連携と再定義をされるべきです。
加えて、シン循環型社会2050との連携も必然的に行われるものです。
資源確保・資源循環・備蓄という捉え方と繋がっていますし、資源自体が、社会的共有財、社会的共用財という性質を持つからでもあります。
今後の個別政策の考察において、都度、これらの関係性と包摂性を確認していくことになります。

6)2050年人口1億人社会の資源論として

今回、前稿と本稿で課題としてきた「資源」は、今現在と現代を象徴するエネルギーと資源供給が途絶えるリスク、日常生活の不安と不安定と危うさを強く意識させる課題となっています。
そしてその状態が、いずれ改善・回復したとしても、未来永劫それらの安心・安定・安全が保障されるものではないことも、明らかになりました。

一つの象徴としてのほぼ四半世紀後の望ましい状況に備えることを考えるために2050年を設定したわけではありません。
人口減少社会が進展する中でも「資源問題」は続くとともに、その在り方も一層多様化・複雑化・困難化を極めるかもしれません。
一朝一夕には、改善・改革・回復が困難な問題だけに、自ずと時間が必要な、代替品とその技術開発、多元的で柔軟な調達・供給方法の実現。
そのための経済活動や国家間外交などに、辛抱強く、戦略的に取り組んでいく国家社会・経済社会・生活社会の三層構造の社会。
そこでの議論と合意形成と統合を、と願い、上表の重点政策課題と、それらを受けて、あるいは繋がる個別政策課題の研究と考察を進めていきたいと思います。

第5章では、石油由来資源、レアアース、レアメタルという個別資源の検討を踏まえ、それらを資源シン安保全体の構造課題として整理しました。

資源問題は、単に海外から必要な資源を確保できるかどうかという問題ではありません。
確保、循環、分配、備蓄という4つの機能が分断され、さらに供給途絶に備える時間軸が十分に設計されていないことが、現在の大きな弱点です。
短期的な在庫対応だけでは、中長期の供給制約には対応できず、資源問題は医療、生活物資、産業活動、物価、地域社会にまで波及します。

また、資源問題は国家社会基盤の内部だけで完結するものではありません。
産業競争力や価格安定に関わる経済社会構造の課題であり、医療・生活物資・日常生活の安定に関わる生活社会基盤の課題でもあります。
したがって、資源シン安保は、国家社会基盤、経済社会構造、生活社会基盤を横断する政策課題として位置づける必要があります。

さらに、資源問題は今後の「国土・自然環境・防災」「公共インフラ」「食料」などの政策テーマとも深く結びついています。
加えて、供給途絶リスクへの対応には、防衛・外交シン安保や統治制度シン安保との連係も不可欠です。
平時からの資源外交、調達多様化、備蓄、緊急時の優先配分、制度運用の準備がなければ、有事における対応は後手に回ります。

その意味で、資源シン安保は、単なる資源確保政策ではなく、社会的共通資本や循環型社会の構想とも接続する国家社会基盤の再設計課題です。
2050年人口1億人社会に向けて、資源の確保、循環、備蓄、外交、制度、産業、生活を一体的に考えることが、本稿の結論的な視点になります。

本稿では、「2050年人口1億人社会の重要資源自立モデル」という視点から、石油由来資源、レアアース、レアメタルという具体的な物質資源を通じて、日本社会の産業基盤と生活基盤の実態を捉え直してきました。

これらの資源は、単なる原材料ではなく、医療、住宅、通信、移動、日用品、製造業といった社会の基本機能を支える「見えない骨格」として存在しています。
そのため、資源問題は「何を輸入しているか」という問題にとどまらず、「どの機能を止めないか」という社会設計の問題として捉える必要があります。

また、本稿を通じて明らかにした通り、日本にとって現実的な資源自立とは、完全な国内自給を目指すことではありません。
求められるのは、外部供給の途絶が直ちに社会機能の停止につながるような致命的依存を縮小し、供給、変換、回収、再利用、備蓄といった機能を国内および地域において一定程度保持することです。

そのためには、石油化学資源の代替・循環、レアアース・レアメタルの供給多様化と再資源化、都市鉱山の動的活用といった個別対策を積み重ねるだけでは不十分です。
確保・循環・分配・備蓄を統合した資源システムとして再設計し、国家基盤と地域基盤を結び直していく必要があります。

人口減少と高齢化が進む2050年の日本においては、成長拡大型の資源消費モデルではなく、生活維持と社会持続を前提とした基盤設計への転換が不可避となります。
資源シン安保とは、その現実を前提に、「止めてはならない社会機能を守るために、どの資源を、どのような形で維持するか」を問い直す取り組みです。

本稿で提示した資源自立モデルは、完成された最終像ではありません。
しかし、人口1億人社会という現実条件のもとで、日本社会がどの方向へ舵を切るべきか、その骨格を示すものです。

今後は、国土、インフラ、食料、外交・防衛といった他の政策領域との接続を通じて、より具体的な制度設計と実装の検討へと進めていく必要があります。
資源問題を起点とした国家社会基盤の再設計こそが、シン安保2050の中核課題であると言えるでしょう。