シン労働力2050の課題構造|人口減少とAX時代における労働力の変化と再設計
人口減少が進む日本社会において、労働力の減少は避けて通ることのできない構造課題となっています。
しかし、この問題を単に「人手不足」として捉えるだけでは、2050年に向けた経済社会構造の再設計にはつながりません。
労働力とは、単に人口の多寡によって決まるものではありません。
どの年齢層がどのように働くのか、女性・高齢者・外国人がどのように社会参加するのか、AI・AXの進展によって人間の仕事がどのように変化するのか。
こうした制度・環境・技術・産業構造の組合せによって、労働力の実態は大きく変わります。
本稿は、シン安保2050「経済社会構造」編における第2テーマとして、労働力の問題を取り上げます。
前回の記事では、雇用・賃金・所得を中心に、経済社会構造そのものがどのように揺らいでいるのかを整理しました。
また、続く補説記事では、人口1億人社会とAX時代を前提に、働き方・所得システム・経済安保の方向性を整理し、経済社会構造をどのように再設計すべきかを考察しました。
本稿では、これらの議論を受けて、経済社会構造を支える基盤としての「労働力」に焦点を当てます。
具体的には、人口減少と労働力人口減少の現実、女性・高齢者・外国人による補完構造の限界、AI・AXが労働力構造に与える影響、そして労働生産性や失業、雇用形態、職業区分の変化を整理します。
その上で、労働力問題を単なる供給不足の問題としてではなく、経済社会構造そのものの設計問題として捉え直します。
本稿の目的は、労働力を「人数」としてではなく、社会を維持する機能として再定義し、2050年に向けた「シン労働力2050」の考察視角を提示することにあります。

目次
1. 労働力とは何か
本章では、本稿全体の出発点として、「労働力とは何か」を改めて整理します。
労働力は、単に人口の多さや生産年齢人口の規模だけで決まるものではありません。実際には、働く意思、働ける環境、雇用制度、教育・訓練、社会保障、産業構造、地域経済などが複雑に関わりながら形成されるものです。
そのため、本稿では労働力を「自然に存在する人的資源」ではなく、社会制度と経済構造によって形成される基盤として捉えます。
この視点に立つことで、人口減少社会における労働力問題を、単なる人手不足ではなく、経済社会構造の再設計課題として考えることが可能になります。
1-1 本記事の目的と位置付け
本節では、本稿が何を目的とし、シン安保2050「経済社会構造」編の中でどのような位置付けを持つのかを確認します。
また、前回までの雇用・賃金・所得に関する議論との関係を整理し、本稿が扱う「労働力」の意味を明確にします。
1)本記事の目的
本記事の目的は、人口減少社会における労働力減少の実態と、その背後にある構造を明らかにすることです。
労働力減少は、単に働く人の数が減るという問題にとどまりません。
それは、産業を維持する力、地域社会を支える力、医療・介護・教育・物流などの生活基盤サービスを継続する力、さらに家計所得や社会保障制度を支える力の低下にもつながります。
これまで日本社会では、女性就労の拡大、高齢者就労の増加、外国人労働者の受け入れなどによって、労働力不足を一定程度補ってきました。
しかし、これらは無限に拡大できるものではなく、それぞれに制度的・社会的・身体的・地域的な制約があります。
さらに、AI・AXの進展によって、人間が担う仕事の内容そのものも変化しています。
そのため本稿では、労働力を「人数」として捉えるのではなく、社会を維持する機能として捉え直し、2050年に向けた新たな労働力構造を考えるための視点を提示します。
2)シン安保2050における位置付け
本稿は、シン安保2050「経済社会構造」編における第2テーマとして位置付けられます。
経済社会構造編では、雇用、賃金、所得、労働力、産業、企業、金融、税制、AI・デジタル経済などを、単なる経済政策の個別領域としてではなく、社会の持続性を支える構造要素として捉えます。
その中で労働力は、雇用・賃金・所得と経済安全保障をつなぐ中間構造に位置します。
なぜなら、労働力が確保されなければ産業は維持できず、産業が維持されなければ所得は形成されず、所得が安定しなければ生活基盤も社会安定も保てないからです。
したがって、労働力は単なる労働市場の問題ではありません。
それは、国家社会基盤、生活社会基盤、経済社会構造をつなぐ実体的な基盤であり、シン経済安保を成立させる前提条件でもあります。
3)前回記事との関係
前回の記事では、雇用・賃金・所得を中心に、経済社会構造がどのように変質しつつあるのかを整理しました。
そこでは、従来の雇用中心モデル、賃金上昇モデル、労働所得依存モデルが、人口減少やAXの進展によって揺らいでいることを確認しました。
一方、本稿では、その前提となる「労働力供給構造」に焦点を当てます。
雇用や賃金、所得の問題を考えるためには、そもそも誰が、どのような条件で、どの領域で働くのかという労働力の構造を確認する必要があります。
また、補説記事では、人口1億人社会とAX時代における働き方・所得システム・経済安保の方向性を整理しました。
本稿は、その議論をさらに一歩進め、働き方や所得の前提となる労働力そのものを、構造的に再定義するものです。
つまり、前回記事が「雇用・賃金・所得の構造」を扱ったのに対し、本稿は「その構造を支える労働力の基盤」を扱います。
この整理を行うことで、次稿における経済安全保障の再設計へと議論をつなげていきます。
1-2 労働力の定義の再整理
本節では、「労働力」という言葉を改めて整理します。
人口減少社会では、人口の減少がそのまま労働力の減少として語られがちですが、両者は同じものではありません。労働力は、人口構造だけでなく、働く意思、働ける条件、制度、技術、地域環境などによって形成されます。
1)労働人口とは、労働力とは|人口=労働力ではない
労働力を考える際には、まず「人口」と「労働力」を区別する必要があります。
人口とは、ある社会に暮らす人々の総数です。
これに対して労働力とは、その中で実際に働いている人、または働く意思と能力を持ち、労働市場に参加している人々を指します。
したがって、人口が多ければ必ず労働力が多いとは限りません。
高齢化が進めば、人口規模が一定程度維持されていても、働くことができる年齢層の割合は低下します。
また、育児、介護、病気、障害、地域の雇用機会不足、教育機会の不足などによって、働く意思があっても労働市場に参加できない人も存在します。
逆に、制度や環境が整えば、これまで労働市場に十分参加できなかった人々が、新たに働くことも可能になります。
女性の就労拡大、高齢者の就業継続、障害者雇用、外国人労働者の受け入れ、副業・兼業・在宅勤務などは、人口そのものを増やすものではありませんが、労働力のあり方を変化させる要素です。
このように、労働力は人口から自動的に生じるものではなく、社会がどのような参加条件を用意しているかによって変わるものです。
2)労働参加・制度・環境の組合せで決定される労働力
労働力は、労働参加、制度、環境の組合せによって形成されます。
労働参加とは、人々が実際に働く意思を持ち、労働市場や社会的活動に参加することです。
しかし、その意思だけでは労働力は形成されません。働くためには、雇用機会、職業訓練、保育・介護支援、交通手段、健康状態、勤務時間の柔軟性、職場環境などが必要です。
たとえば、子育て中の人が働こうとしても、保育サービスが不足していれば就業は困難になります。
高齢者が働く意欲を持っていても、体力や健康状態に応じた仕事がなければ継続は難しくなります。
外国人が働こうとしても、在留資格、言語、住居、教育、地域社会との関係が整っていなければ、安定した労働参加は実現しません。
この意味で、労働力とは個人の意思や能力だけで決まるものではなく、制度と環境によって形成される社会的な構造です。
労働力不足への対応も、単に「もっと働く人を増やす」という発想では不十分であり、働ける条件そのものを設計する必要があります。
3)供給構造としての労働力
労働力は、経済社会における供給構造の一部です。
ここでいう供給構造とは、産業や地域社会が必要とする人材、技能、時間、役割、社会参加の形を、どのように確保し、配置し、維持するかという仕組みを指します。
従来は、労働力供給は主に生産年齢人口と雇用制度によって説明されてきました。
しかし、人口減少社会においては、生産年齢人口そのものが縮小し、従来のように若年層の新規労働力が継続的に供給される前提は成立しにくくなります。
また、AI・AXの進展により、必要とされる労働の内容も変化します。
単純に人手を増やせばよいのではなく、どの領域に人間の労働が必要なのか、どの領域をAIや自動化で補完するのか、人間に残される役割をどのように再設計するのかが問われます。
したがって、労働力は「人数」ではなく、「社会が必要とする機能を担う力」として捉える必要があります。
この視点が、本稿でいうシン労働力2050の出発点となります。
1-3 労働力を規定する3要素
本節では、労働力を規定する主要な要素を、人口構造、社会制度、経済構造の3つに分けて整理します。
労働力はこれらの要素が重なり合うことで形成されるため、どれか一つだけを見ても全体像は把握できません。
1)人口構造(年齢・出生・高齢化)
労働力を規定する第1の要素は、人口構造です。
人口構造とは、総人口の規模だけでなく、年齢構成、出生数、高齢化率、世代間の人口バランスなどを含むものです。
特に労働力との関係では、生産年齢人口の規模と比率が重要になります。
少子化が続けば、将来の若年労働力は減少します。
高齢化が進めば、医療・介護などの需要は増える一方で、それを担う現役世代の比率は低下します。
この結果、労働力の供給側と需要側の双方に圧力がかかります。
ただし、人口構造だけで労働力が決まるわけではありません。
同じ人口構造であっても、女性や高齢者の就業環境、地域の産業構造、教育・職業訓練の仕組みが異なれば、実際に形成される労働力は大きく変わります。
2)社会制度(雇用制度・社会保障・教育)
第2の要素は、社会制度です。
雇用制度、社会保障制度、教育制度、職業訓練制度、保育・介護支援制度などは、人々が働けるかどうかを大きく左右します。
たとえば、育児や介護と仕事を両立できる制度が整っていなければ、働く意思を持つ人でも労働市場から離れざるを得ません。
また、社会保障制度が特定の雇用形態を前提としている場合、非正規雇用、フリーランス、副業・兼業、短時間労働などの働き方は、制度からこぼれ落ちやすくなります。
このような制度的不整合は、労働参加を妨げるだけでなく、所得不安や将来不安を拡大させます。
教育制度や職業訓練制度も重要です。
AI・AX時代には、既存の技能だけでなく、新たな技術を使いこなす力、対人関係能力、問題解決能力、複数の領域を横断する力が求められます。
そのため、若年期だけでなく、人生の途中で学び直す仕組みが労働力形成の重要な条件となります。
3)経済構造(産業構造・需要構造)
第3の要素は、経済構造です。
どの産業が成長し、どの産業が縮小するのか。
どの地域に仕事があり、どの地域で仕事が失われるのか。
どの職種に需要が集中し、どの職種がAIや自動化によって代替されるのか。
これらの経済構造の変化は、労働力のあり方を直接左右します。
人口減少社会では、すべての産業や地域が同じように労働力を必要とするわけではありません。
医療・介護・福祉、物流、建設、農業、地域サービスなどでは人手不足が深刻化する一方、AIや自動化によって人間の労働需要が減少する領域もあります。
このように、労働力問題は、人口と制度だけではなく、産業構造や需要構造と一体で捉える必要があります。
労働力をどこに、どのように配置するのかという問題は、経済社会構造全体の設計問題なのです。
1-4 日本型労働力構造の特徴と限界
本節では、これまで日本社会を支えてきた労働力構造の特徴を整理します。
日本型労働力構造は、長く男性正社員を中心とする雇用モデルを前提としてきました。しかし、人口減少、働き方の多様化、非正規雇用の拡大、AI・AXの進展によって、その前提は大きく揺らいでいます。
1)男性正社員中心モデル
日本型労働力構造の中心には、男性正社員を標準とする雇用モデルがありました。
このモデルでは、男性が長期的に企業に勤め、賃金を得て家計を支え、女性が家事・育児・介護を担うという役割分担が暗黙の前提とされてきました。
企業は正社員に対して長期雇用、年功的賃金、企業内訓練、福利厚生を提供し、労働者は企業への継続的な貢献を通じて生活の安定を得るという構造です。
しかし、このモデルは現在の社会状況には適合しにくくなっています。
共働き世帯の増加、単身世帯の増加、非正規雇用の拡大、女性の就業継続、高齢者就労、外国人労働者の増加などにより、労働力の実態は大きく多様化しています。
にもかかわらず、制度や企業慣行の一部には、いまだに男性正社員中心モデルを前提とした仕組みが残っています。
このずれが、働き方の不安定化や所得格差、社会保障制度との不整合を生み出しています。
2)長時間労働と固定的雇用
日本型労働力構造のもう一つの特徴は、長時間労働と固定的雇用です。
長時間働ける人を標準とする仕組みは、企業にとっては柔軟な人員運用を可能にしてきました。
しかし、それは育児、介護、病気、障害、学び直し、副業、地域活動などとの両立を難しくする要因にもなってきました。
また、固定的な雇用慣行は、安定性をもたらす一方で、職務や役割の変化に対応しにくいという弱点を持っています。
AI・AX時代には、業務内容が短期間で変化し、求められるスキルも変わります。
そのような時代において、長時間労働と固定的雇用を前提とした労働力構造は、変化への適応力を失いやすくなります。
今後必要になるのは、長く働ける人だけを標準とする構造ではなく、さまざまな生活条件を持つ人が、無理なく社会参加できる労働力構造です。
それは、労働時間、勤務場所、職務内容、評価方法を含めた総合的な再設計を必要とします。
3)非正規雇用依存構造
日本型労働力構造の限界を最も明確に示しているのが、非正規雇用への依存です。
非正規雇用は、企業にとっては雇用調整の手段となり、働く側にとっては短時間勤務や柔軟な働き方を可能にする面もあります。
しかし、その一方で、賃金の低さ、雇用の不安定さ、教育訓練機会の不足、社会保障との接続の弱さといった問題を抱えています。
特に、女性、高齢者、若年層、外国人労働者などが非正規雇用に偏りやすい構造は、労働力補完を進めながら同時に不安定雇用を拡大するという矛盾を生み出してきました。
人口減少社会では、すべての労働力が貴重になります。
にもかかわらず、労働力を低賃金・不安定雇用として使い捨てる構造を続ければ、社会全体の持続性は損なわれます。
したがって、非正規雇用依存構造の見直しは、単なる雇用政策ではなく、シン労働力2050を構築するための重要な前提となります。
本章で整理した労働力・雇用・所得の課題構造は、個別に存在するものではなく、相互に連関した構造として捉える必要があります。
以下に、その全体像を整理します。

2. 人口減少・労働力減少と労働生産性の現実
本章では、日本社会における人口減少と労働力減少の現実を確認し、その意味を整理します。
人口減少は、単に総人口が減るという問題ではありません。働く世代の縮小、高齢化率の上昇、地域間の人口偏在、産業別の人材不足などを通じて、経済社会構造全体に影響を及ぼします。
さらに、労働力が減少する社会では、しばしば「労働生産性の向上」が解決策として語られます。
しかし、労働生産性の向上だけで、すべての労働力不足や社会維持機能の低下を補えるわけではありません。とりわけ、医療、介護、保育、教育、地域交通、生活支援など、人と人との関係性を前提とする領域では、単純な効率化だけでは解決できない課題があります。
したがって本章では、人口減少と労働力減少を数量の問題としてだけではなく、社会維持能力、制度前提、労働生産性の限界という視点から捉え直します。
2-1 人口減少の長期トレンド
本節では、日本の人口減少がどのような長期的流れの中で進んでいるのかを確認します。
ここで重要なのは、人口減少が一時的な変化ではなく、2050年に向けた社会構造の前提条件になっているという点です。
1)2008年をピークとした減少局面
日本の総人口は、2008年頃をピークに減少局面に入りました。
それ以降、出生数の減少と高齢化の進行により、人口減少は長期的な傾向として定着しています。
この人口減少は、単に人数が減るという現象ではありません。
人口の内訳が変化し、若年層や現役世代が減少する一方で、高齢者の割合が高まることにより、社会全体の支え手と支えられる側のバランスが変化します。
その結果、労働市場、社会保障、地域経済、公共サービス、家族形成、消費構造など、幅広い領域に影響が及びます。
人口減少は、単なる統計上の変化ではなく、経済社会構造全体を再編する基礎条件なのです。
2)2050年1億人規模への収束
2050年に向けて、日本の総人口は1億人規模へと近づいていくと見込まれています。
この変化は、社会の規模そのものが縮小していくことを意味します。
人口が1億人規模になる社会では、これまでのように人口増加や市場拡大を前提とした経済運営は成立しにくくなります。
住宅、交通、教育、医療、介護、小売、地域サービスなど、さまざまな領域で需要構造が変化します。
一方で、人口が減るからといって、社会に必要な機能が同じ割合で減るわけではありません。
むしろ、高齢化の進行によって医療・介護・福祉などの需要は増加し、地域社会の維持に必要な人手やサービスは引き続き求められます。
したがって、2050年人口1億人社会では、社会の規模縮小を前提にしながら、どの機能をどのように維持するのかという設計が不可欠になります。
3)高齢化率の上昇
人口減少と同時に進むのが、高齢化率の上昇です。
高齢化は、労働力構造に二重の影響を与えます。
第一に、現役世代の比率が低下することで、労働力の供給基盤が縮小します。
第二に、医療、介護、生活支援、地域交通、見守り、住まいの支援など、高齢者を支えるサービス需要が増加します。
つまり、高齢化は「働き手が減る」だけでなく、「支えるべき社会機能が増える」という形で、労働力問題をより複雑にします。
このため、人口減少社会における労働力問題は、単なる労働者数の減少ではなく、誰がどの機能を担い、どの領域に限られた労働力を配置するのかという構造的課題として捉える必要があります。
2-2 労働力人口減少の構造
本節では、人口減少が労働力人口にどのように影響しているのかを整理します。
日本の労働力人口は、女性や高齢者の就業拡大によって一時的に支えられてきましたが、2030年以降は構造的な減少圧力がさらに強まると考えられます。
1)1997年ピークからの減少
日本の労働力人口は、1990年代後半を一つのピークとして、その後は減少圧力を受けるようになりました。
これは、少子化による若年人口の減少と、高齢化による現役世代比率の低下が重なった結果です。
ただし、労働力人口の減少は、総人口の減少と完全に同じ速度で進んできたわけではありません。
その理由は、これまで女性の就業率上昇や高齢者の就業継続によって、一定程度の労働力が補われてきたためです。
しかし、この補完には限界があります。
すでに女性や高齢者の就業参加はかなり進んでおり、今後も同じペースで労働力を増やし続けることは容易ではありません。
2)2020年代までの一時的維持
2020年代までの日本では、総人口や生産年齢人口が減少しているにもかかわらず、労働力人口は一定程度維持されてきました。
その背景には、女性就労の拡大、高齢者就業の増加、外国人労働者の受け入れ拡大があります。
女性の就業率上昇は、保育制度の整備、共働き世帯の増加、家計所得の補完、企業の人手不足対応などによって進みました。
高齢者就業の増加は、定年延長、再雇用制度、年金受給との関係、健康寿命の延伸などと関係しています。
外国人労働者の増加は、技能実習、特定技能、専門職人材の受け入れなどによって進んできました。
しかし、これらは人口減少そのものを止めるものではありません。
あくまで、既存の人口の中から労働参加を増やし、減少圧力を一時的に緩和してきたものです。
そのため、2020年代までの労働力人口の維持をもって、今後も同様に労働力が確保できると考えることはできません。
3)2030年以降の急減
2030年以降は、労働力人口の減少がより明確になります。
若年層の減少が進み、団塊ジュニア世代の高齢化も重なることで、労働市場に参加する中心世代の厚みが失われていくためです。
この変化は、単に全体の労働者数が減るというだけではありません。
若年人材の不足、技能継承の困難化、地域産業の担い手不足、医療・介護人材の不足、建設・物流・農業など生活基盤を支える分野での人手不足として現れます。
また、産業によって影響の出方は異なります。
高度人材を集められる大都市圏や大企業では一定の対応が可能であっても、地方、中小企業、生活密着型サービス、公共的サービス分野では深刻な人材不足が進みやすくなります。
したがって、2030年以降の労働力減少は、社会全体の平均的な問題ではなく、地域・産業・職種ごとの不均衡として現れる点に注意が必要です。
4)2030・2040・2050の労働力シナリオ
2030年、2040年、2050年を見通すと、労働力の確保は段階ごとに異なる課題を持ちます。
2030年頃までは、女性、高齢者、外国人労働者の就業拡大、DX・AI導入による効率化、働き方改革などによって、労働力不足を一定程度緩和することが可能です。
しかし、この段階でも、介護、建設、物流、農業、地域サービスなどでは人手不足が顕在化します。
2040年頃には、生産年齢人口の減少がさらに進み、労働力の量的制約がより深刻になります。
女性や高齢者の就業率上昇による補完余地も縮小し、外国人労働者の受け入れについても、制度整備や社会統合の課題がより大きくなります。
2050年には、人口1億人規模の社会を前提として、労働力を「確保する」だけでなく、社会全体の機能をどのように維持するかが問われます。
この段階では、労働力を人数で考えるだけでは不十分であり、AI・AX、地域再編、職業再設計、所得保障、社会参加の多様化を含めた総合的な構造設計が必要になります。
つまり、2030年は対応の時期、2040年は制度転換の時期、2050年は新しい労働力構造を前提として社会を運営する時期と位置付けることができます。
ここまで見たように、労働力減少は一度に同じ形で進むのではなく、2030年、2040年、2050年で課題の性質が変化します。以下に、その段階的な変化を整理します。
| 時期 | 労働力問題の特徴 | 主な課題 | 必要となる対応 |
|---|---|---|---|
| 2030年頃 | 労働力不足が顕在化する段階 | 介護、建設、物流、農業、地域サービスの人手不足 | 女性・高齢者・外国人労働、DX・AI導入、働き方改革による緩和 |
| 2040年頃 | 量的制約が深刻化する段階 | 補完余地の縮小、制度・社会統合課題の拡大 | 労働市場再編、リスキリング、制度転換 |
| 2050年頃 | 人口1億人社会を前提に運営する段階 | 人数確保ではなく社会機能維持が課題 | AI・AX、地域再編、所得保障、社会参加の多様化を含む構造設計 |
このように、2030年は対応の時期、2040年は制度転換の時期、2050年は新しい労働力構造を前提として社会を運営する時期と位置付けることができます。
2-3 労働力減少の意味
本節では、労働力減少が社会に何をもたらすのかを整理します。
労働力減少は、単なる企業の人手不足や採用難だけでなく、社会維持機能そのものの低下につながる可能性があります。
1)単なる人手不足ではない
労働力減少は、しばしば「人手不足」として語られます。
もちろん、企業や事業所にとっては、採用できない、シフトが組めない、事業を継続できないという形で問題が現れます。
しかし、労働力減少を人手不足だけで捉えると、問題の本質を見誤ります。
なぜなら、労働力減少は、単に働く人数が足りないという問題ではなく、社会が必要とする機能を誰がどのように担うのかという問題だからです。
たとえば、同じ人手不足でも、飲食店の営業時間短縮と、介護施設の人員不足、地域の公共交通の維持困難、災害対応人材の不足では、社会への影響の質が異なります。
生活維持に直結する分野で労働力が不足すれば、個人の生活だけでなく、地域社会や国家社会基盤にも影響が及びます。
したがって、労働力減少は、個別企業の採用難ではなく、社会機能の維持問題として捉える必要があります。
2)社会維持機能の低下
労働力が減少すると、社会維持機能の低下が起こります。
社会維持機能とは、日常生活を支える基礎的な機能を指します。
医療、介護、保育、教育、物流、農業、建設、交通、公共インフラの管理、防災、地域行政、生活支援サービスなどがこれに当たります。
これらの分野では、一定の人手がなければサービスを維持できません。
AIやデジタル技術によって一部の業務を効率化することは可能ですが、対人対応、現場判断、緊急対応、身体的ケア、地域での信頼関係など、人間が担わなければならない領域は残ります。
労働力減少が進むと、こうした社会維持機能の担い手が不足し、サービスの質や提供範囲が低下する可能性があります。
特に人口減少が進む地方や中山間地域では、医療機関、介護施設、学校、商店、交通機関などの維持が難しくなり、生活基盤そのものが弱体化します。
この意味で、労働力減少は経済問題であると同時に、生活社会基盤と国家社会基盤の維持に関わる安保課題でもあります。
3)制度前提の崩壊
労働力減少は、これまでの社会制度が前提としてきた構造にも影響を与えます。
日本の社会制度の多くは、一定数の現役世代が働き、賃金を得て、税や社会保険料を負担し、その財源によって高齢者や子ども、医療・介護・福祉を支えるという仕組みに依存してきました。
しかし、現役世代が減少し、労働所得が伸びにくくなり、非正規雇用や不安定就労が増えると、この前提は揺らぎます。
税収、社会保険料、年金制度、医療保険、介護保険、地方財政など、複数の制度に影響が及びます。
さらに、働き方が多様化し、雇用関係に基づかない働き方が増えると、雇用を前提とした社会保障制度との不整合も拡大します。
労働力減少は、単に働く人が少なくなるだけでなく、制度の前提そのものを変えてしまうのです。
したがって、労働力減少への対応は、労働市場対策にとどまらず、社会保障、税制、教育、産業政策、地域政策を含む総合的な制度再設計として考える必要があります。
2-4 労働生産性と労働力の関係
本節では、労働力減少社会において必ず論点となる「労働生産性」と労働力の関係を整理します。
労働生産性の向上は重要ですが、それだけで労働力減少のすべてを補えるわけではありません。どの領域で生産性向上が有効であり、どの領域では限界があるのかを見極める必要があります。
1)労働力減少を補うものとしての労働生産性
労働力が減少する社会では、労働生産性の向上が重要になります。
少ない人数でより多くの価値を生み出すことができれば、労働力の量的減少を一定程度補うことができるためです。
AI、ロボット、デジタル技術、業務効率化、標準化、物流の最適化、データ活用などは、労働生産性を高める有力な手段です。
特に、定型的な事務作業、製造工程、在庫管理、会計処理、予約管理、情報整理などでは、技術導入によって人手不足をかなり補える可能性があります。
また、労働生産性の向上は、企業の収益力や賃金上昇にも関係します。
少ない労働投入で高い付加価値を生み出せる構造ができれば、所得形成や経済循環にも良い影響を与える可能性があります。
この意味で、労働生産性は、人口減少社会における重要な対応策の一つです。
しかし、それは万能の解決策ではありません。
2)労働生産性向上だけでは解決できない領域
労働生産性の向上には限界もあります。
特に、人と人との関係性、身体的ケア、現場判断、信頼形成、地域との関わりを必要とする領域では、単純な効率化だけでは解決できない課題があります。
介護、保育、医療、教育、障害者福祉、相談支援、地域福祉、生活支援などは、典型的な例です。
これらの分野では、時間をかけて相手と向き合うことそのものがサービスの質を構成します。
したがって、単純に短時間で多くの人数を処理することが、必ずしも良い成果につながるとは限りません。
また、公共的サービスやエッセンシャルワークの多くは、市場価格だけで価値を測ることが難しい分野です。
介護や医療のように公的価格制度の影響を受ける領域では、生産性向上がそのまま賃金上昇や人材確保につながらない場合もあります。
このため、労働生産性向上を重視することは必要ですが、それをすべての分野に同じように適用することはできません。
労働力問題を考える際には、生産性で補える領域と、生産性だけでは補えない領域を区別する必要があります。
3)AI・AX時代における生産性概念の再検討
AI・AX時代には、労働生産性という概念そのものも再検討する必要があります。
従来の労働生産性は、一定の労働投入に対してどれだけの付加価値を生み出したかという形で捉えられてきました。
しかし、AIが業務の一部を担うようになると、人間の労働が直接生み出した成果と、AIやシステムが生み出した成果をどのように区分するのかが難しくなります。
また、人間の役割は、単純な作業量ではなく、判断、創造、調整、対人関係、倫理的配慮、責任の引き受けなどに移っていきます。
これらの価値は、従来型の労働生産性指標では十分に測れない場合があります。
したがって、AI・AX時代の労働生産性は、単に「少ない人数で多くを処理する」ことではなく、人間とAIがそれぞれの役割を分担し、社会に必要な機能をより安定的に維持する力として捉え直す必要があります。
この視点に立つと、労働生産性は労働力減少への対応策であると同時に、労働そのものの意味を再定義するための入口にもなります。
次章では、この労働力減少を補ってきた女性、高齢者、外国人労働者の実態と限界について整理します。

3. 労働力補完構造の実態と限界
本章では、日本の労働力減少を実際に支えてきた補完構造について、統計データを基に具体的に確認します。
女性・高齢者・外国人という3つの労働力は、これまで労働力人口の減少を一定程度緩和してきましたが、その内実を見ると、単なる拡大ではなく「限界に近づきつつある構造」であることが明確に確認できます。
本章では、就業率、人数、構成比、賃金構造などの数値をもとに、補完構造の実態を具体的に示し、その限界を明らかにします。
3-1 女性労働力の拡大と限界
女性労働力は、日本の労働力維持に最も大きく寄与してきた要素です。
しかし、その実態は「量的拡大」と「質的停滞」が同時に進行している構造となっています。
1)就業率の上昇と労働力人口への寄与
女性の就業率は大きく上昇しています。
15〜64歳女性の就業率は、2000年前後の約57%から、2023年には約73%前後まで上昇しています。
特に30代後半〜40代前半の「M字カーブ」は大きく改善し、出産後も就業を継続する傾向が強まっています。
この変化により、労働力人口の減少は年間数十万人規模で抑制されてきました。
つまり、女性労働力の拡大がなければ、日本の労働力人口はすでにより急激な減少局面に入っていたといえます。
2)非正規比率と賃金構造
しかし、女性労働の内実を見ると、構造的な問題が明確です。
女性雇用者のうち、非正規雇用の割合は約50%前後と、男性(約20%前後)の倍以上となっています。
また、男女賃金格差は依然として大きく、女性の平均賃金は男性の約70〜75%程度にとどまっています。
これはOECD諸国の中でも比較的大きい水準です。
つまり、女性労働力の増加は「低賃金・短時間労働の拡大」によって実現している側面が強く、労働力の量は増えても、所得形成力は十分に強化されていません。
3)拡大余地の限界
女性の就業率はすでに高水準に達しており、今後の大幅な上昇余地は限定的です。
特に、子育て・介護との両立負担が解消されない限り、これ以上の就業拡大には構造的な制約があります。
したがって、女性労働力は「量の拡大フェーズ」から「質の改善フェーズ」へ移行しなければ、労働力問題の本質的な解決にはつながりません。
3-2 高齢者労働力の拡大と限界
高齢者労働力も、日本の労働力維持において重要な役割を果たしています。
しかし、その拡大もまた明確な限界を持っています。
1)就業者数と就業率の上昇
65歳以上の就業者数は増加を続けており、2023年には約900万人規模に達しています。
就業率も上昇し、65〜69歳では約50%前後、70〜74歳でも約30%前後となっています。
この増加により、労働力人口の減少は一定程度抑制されてきました。
特に地方では、高齢者が地域経済や生活サービスの担い手となっています。
2)賃金と雇用形態の実態
しかし、高齢者労働の多くは、再雇用・パート・嘱託などの形態であり、賃金水準は現役世代より大幅に低くなっています。
定年後の賃金は、現役時の50〜60%程度に低下するケースも多く見られます。
また、職務内容も補助的業務や軽作業に限定されることが多く、能力や経験が十分に活用されていない場合もあります。
3)健康・持続性の限界
高齢者就業には明確な上限があります。
健康寿命は男性約72歳、女性約75歳程度であり、それ以降の就業継続は個人差が大きくなります。
したがって、高齢者労働力は「一時的な補完手段」としては有効ですが、長期的に拡大し続けることはできません。
3-3 外国人労働力の拡大と限界
外国人労働力は、近年急速に拡大している補完要素です。
しかし、その構造は制度依存性が高く、安定的な労働力として定着しているとは言い難い状況です。
1)外国人労働者数の増加
外国人労働者数は増加を続け、2023年には約200万人を超えています。
製造業、建設、介護、外食、宿泊、農業などで重要な役割を担っています。
2)制度構造と制約
外国人労働は、技能実習・特定技能などの制度に強く依存しています。
これらの制度は、在留期間、職種、転職の自由などに制約があり、労働力の流動性や定着性を制限しています。
3)社会統合の課題
外国人労働者は、労働力であると同時に生活者でもあります。
日本語教育、住居、医療、教育などの生活基盤整備が不十分な場合、定着は困難になります。
また、低賃金労働力として依存する構造が続けば、国内労働市場との摩擦も生じます。
女性・高齢者・外国人労働力は、いずれも日本の労働力減少を緩和してきました。
しかし、それぞれの補完構造には異なる限界があります。以下に、その特徴を整理します。
| 補完労働力 | 拡大してきた理由 | 主な限界 | 今後の課題 |
|---|---|---|---|
| 女性労働力 | 共働き世帯の増加、保育制度整備、人手不足対応 | 非正規比率の高さ、賃金格差、育児・介護負担 | 量的拡大から質的改善へ転換 |
| 高齢者労働力 | 定年延長、再雇用、健康寿命延伸、生活費補完 | 健康・体力の制約、賃金低下、継続性の限界 | 無理のない就業と所得保障の両立 |
| 外国人労働力 | 製造、介護、建設、外食、農業などの人手不足 | 在留制度、転職制約、生活支援、社会統合 | 労働力ではなく生活者としての制度設計 |
この整理から分かるように、補完構造は労働力減少を一時的に緩和してきましたが、いずれも長期的な解決策にはなりません。ここから、労働力問題を「供給確保」ではなく「構造設計」として捉える必要が生じます。
3-4 補完構造の限界と今後の方向性
本節では、第3章で確認してきた女性・高齢者・外国人による労働力補完構造を総括し、その限界と今後の方向性を整理します。
ここで重要なのは、これらの補完構造を単なる「成功事例」として捉えるのではなく、労働力問題の本質を浮き彫りにする構造として位置付けることです。
1)数量的補完の限界|既存人的資源の再動員に過ぎない
女性・高齢者・外国人による労働力補完は、確かに労働力人口の減少を一定程度緩和してきました。
しかし、その本質は「新しい労働力の創出」ではなく、「既存資源の再動員」に過ぎません。
女性の就業率はすでに70%台に達し、高齢者就業も65歳以上で約900万人規模に拡大しています。
外国人労働者も200万人規模に増加していますが、これらはいずれも無限に拡大できるものではありません。
つまり、現在の補完構造は「延命的対応」であり、人口減少という基礎条件そのものを変えるものではないという点を明確に認識する必要があります。
2)質的問題の拡大|低賃金・不安定構造の固定化
補完構造は、量的には労働力を支えてきましたが、同時に質的問題を拡大させています。
女性労働では非正規比率約50%、男女賃金格差約25%前後という構造が存在し、
高齢者労働では賃金水準の低下と補助的職務への偏りが見られます。
外国人労働では制度制約と低賃金依存構造が問題となっています。
この結果、「労働力は確保されているが、安定した所得形成ができない」という状態が拡大しています。
これは、労働力問題と所得問題が分離できないことを示しています。
したがって、補完構造の拡大は、そのままでは経済社会構造の強化ではなく、むしろ脆弱性の拡大につながる可能性があります。
3)構造的制約|不可逆的な限界の存在
補完構造には、明確な構造的制約があります。
女性労働は、育児・介護負担との両立問題により上限が存在し、
高齢者労働は健康寿命という物理的制約を受け、
外国人労働は制度・社会統合・国際競争の制約を受けます。
これらはすべて「政策で完全に解消できる問題ではない」という点が重要です。
つまり、労働力補完構造は本質的に制約付きの対応であり、長期的な解決策にはなり得ません。
さらに、人口減少そのものは短期的に反転させることが困難であり、不可逆的な構造変化として進行します。
この前提に立つ限り、「補う」という発想には限界があります。
4)労働力問題の転換|供給確保から構造設計へ
以上を踏まえると、労働力問題は根本的に発想を転換する必要があります。
従来の議論は、「どこから労働力を確保するか」という供給側の問題に集中してきました。
しかし、人口減少社会においては、この発想だけでは限界に直面します。
必要なのは、「どの労働を人間が担い、どの労働を技術で代替し、どの領域を縮小・再編するか」という構造設計の視点です。
つまり、労働力問題は「人数の問題」ではなく、「社会の機能配置の問題」へと転換します。
この転換こそが、シン労働力2050の出発点となります。
次章では、この構造転換の具体的な要素として、AI・AXが労働力構造に与える影響を整理し、人間の労働がどのように再定義されるのかを検討します。

4. AI・AXが労働力構造に与える影響|労働力再編の実態と課題
本章では、第2章で確認した労働力人口の減少と、第3章で明らかになった補完構造の限界を前提として、AI・AXが労働力構造にどのような変化をもたらすのかを整理します。
ここでの焦点は、単なる技術論ではなく、「労働力という概念そのものがどう変わるのか」という点にあります。
人口減少社会においては、労働力を増やすことはできません。したがって問題は、「誰が働くか」ではなく「何を人間が担うのか」へと移行します。
AI・AXは、この問いを現実のものとして突きつける存在です。
4-1 AIとは何か、AXとは何か|その特質と予測
本節では、労働力構造の変化を理解する前提として、AIおよびAXの基本的性質を整理します。
ここを曖昧にしたまま議論すると、以降の労働論はすべて抽象論に終わってしまいます。
1)AIとは何か|その特徴と可能性
AIとは、大量のデータとアルゴリズムに基づき、人間の認知・判断・予測を代替または補助する技術です。
特に近年のAIは、単なる自動化を超え、以下の特徴を持っています。
・パターン認識能力の高さ(画像・音声・言語)
・予測能力(需要予測・リスク判断)
・生成能力(文章・画像・設計)
この結果、AIは「単純作業の代替」から「知的作業の補助・代替」へと領域を拡大しています。
ただし、AIは目的設定や価値判断を自律的に行うことはできず、あくまで人間の設定した枠組みの中で機能する存在です。
2)AIエージェントとは何か|その特徴と可能性
AIエージェントとは、単体のAIではなく、複数のタスクを自律的に遂行するシステムです。
従来のAIが「指示された作業をこなす存在」であったのに対し、AIエージェントは以下の特徴を持ちます。
・複数工程の自動実行
・状況に応じた判断の連続
・人間との対話的インターフェース
例えば、営業支援、顧客対応、業務管理などにおいて、人間の補助を超えて「業務単位」で機能する可能性があります。
この段階に入ると、労働代替は「作業単位」ではなく「役割単位」で進むことになります。
3)AXとは何か|その特徴と可能性
AX(AIトランスフォーメーション)とは、AIの導入によって業務や組織のあり方そのものが変わる現象を指します。
DXとの違いは、「効率化」ではなく「構造転換」である点です。
AXの特徴は以下の通りです。
・業務の再設計(プロセス自体が変わる)
・組織構造の変化(人の役割が変わる)
・価値創出構造の変化(何が価値かが変わる)
つまり、AXとは「人がやる前提で設計されていた社会」を作り替える動きです。
4)AXがもたらす労働力への本質的影響
AXが労働力に与える影響の本質は、以下の3点に集約されます。
・労働が「時間」ではなく「機能」で評価されるようになる
・労働が「職業単位」ではなく「役割単位」に分解される
・労働と非労働の境界が曖昧になる
この3点が、以降のすべての議論の前提となります。
AI・AIエージェント・AXは似た言葉として使われがちですが、労働力構造への影響は段階的に異なります。以下に、その違いを整理します。
| 区分 | 主な特徴 | 労働力への影響 |
|---|---|---|
| AI | 認知、判断、予測、生成を補助・代替する技術 | 個別業務や知的作業の一部を補助・代替する |
| AIエージェント | 複数工程を自律的に遂行するシステム | 作業単位ではなく、業務単位・役割単位で代替が進む |
| AX | AI導入によって業務・組織・価値創出構造が変わる現象 | 労働時間、職業分類、雇用構造、制度前提を変える |
この違いを踏まえると、AI・AXは単なる効率化技術ではなく、労働力そのものを「人数」から「機能」へと捉え直す契機であることが分かります。
4-2 労働力代替の実態|減るのは人ではなく役割
AI・AXによって起きている変化は、「人が不要になる」という単純な話ではありません。
実際には、労働は細分化され、役割ごとに再編されています。
1)業務単位での代替が進行
AIは職業を丸ごと消すのではなく、その中の業務を切り出して代替します。
例えば事務職であれば、入力、確認、集計などの作業が個別に自動化されます。
この結果、「職は残るが中身が変わる」という現象が起きています。
企業において、リスキリングが盛んにおこなわれている状況が、こうした要因からです。
2)中間層労働の縮小
この変化の影響を最も強く受けるのは、中間的技能層です。
単純労働と高度専門職の間に位置する領域が縮小します。
これは、日本型雇用の中核をなしてきた層の変化を意味します。
3)メンバーシップ雇用・ジョブ型雇用、どちらも必要な転換
従来のメンバーシップ雇用から、ジョブ型雇用への移行もある意味では、上記の傾向と一致しているようには見えます。
しかし本質的には違います。
ジョブ型雇用政策そのものの見直しも必要になっているのです。
4)日本では配置問題として現れる
人口減少社会では、AIによる代替は失業ではなく「配置の歪み・偏り」として現れます。
・人が余る領域
・人が不足する領域
この分断が拡大することが、日本における最大の課題です。
4-3 労働需要の再編|不足するのはどの労働か
労働需要は均等に減るのではなく、特定領域に集中して不足します。
1)縮小する領域
定型業務、単純事務、低付加価値業務は構造的に縮小します。
ここに人を配置し続けることは、限られた労働力の非効率な使用となります。
2)不可欠なエッセンシャルワークとその特性
一方で、医療・介護・福祉などのエッセンシャルワークは、現在でもふそくしているのですが、労働力不足が一層深刻化します。
これらの仕事の特徴は以下です。
・対人関係が中心である
・個別対応が不可欠である
・信頼関係の構築が必要である
このような業務は、間接的な作業の代替やシステム化が可能であっても、AIによる完全代替が困難です。
3)対人関係重視型職種の重要性
エッセンシャルワークと同様に、営業職の中でも対人関係を重視する領域はAI代替が困難です。
特に、
・信頼構築型営業
・課題解決型営業
・関係維持型営業
などは、人間の関与が不可欠です。
つまり、今後不足するのは「人と関わる労働」です。
4)低賃金構造という根本問題
しかし、これらの重要な労働は低賃金構造に置かれています。
このため、「必要だが人が集まらない」という構造が固定化しています。
これは労働力問題が「供給問題ではなく所得問題」であることを示しています。
4-4 スキル構造の再編|労働力の質の再設計
AI・AXは、労働力の「量」ではなく「質」を変えます。
ここは本章の中でも特に重要な部分です。
1)スキルの二極化ではなく再編
従来は「高スキル/低スキル」という二極化で語られてきましたが、実際にはそう単純ではありません。
再編されるのは以下の3層です。
・AI代替されやすいスキル
・AIを活用するスキル
・AIでは代替できないスキル
この構造を理解しないと、教育・リスキリングや人材政策は機能しません。
2)AI活用能力の基礎化
AIを使えるかどうかは、専門能力ではなく基礎能力になります。
読み書きと同じレベルで必須化します。
これが欠けると、労働市場から排除されるリスクが高まります。
3)非定型能力の中核化
創造、判断、対人関係といった能力が中核になります。
これらはAIが補助はできても、完全代替が難しい領域です。
もちろん、AIを使いこなす能力は必須です。
4)教育と労働の連続化
スキルは一度習得して終わりではなく、継続的に更新されます。
この結果、教育と労働は分離できなくなります。
これは、教育制度そのものの再設計の必要性を意味します。
4-5 労働力問題から制度問題への転化
ここまでの変化を総合すると、労働力問題は制度問題へと転化します。
1)労働と所得の関係の崩壊
労働しても十分な所得が得られない、あるいは労働機会そのものが不安定になる状況が拡大します。
これは「働けば生活できる」という前提の崩壊を意味します。
2)雇用前提社会の限界
社会保障、税制、雇用制度は、すべて雇用を前提に設計されています。
しかし、この前提が成立しなくなりつつあります。
3)所得保障の構造問題化
所得問題は、再分配ではなく「構造問題」として現れます。
つまり、所得を得る仕組みそのものが変化しています。
4)制度再設計の不可避性
このため、労働に依存しない所得構造の検討が不可避となります。
これは単なる福祉ではなく、労働力構造の変化への対応です。
以上のように、AI・AXは労働力を減少させるのではなく、労働力の構造そのものを再編します。
この前提に立って、次章では働き方・雇用・政策の具体的な転換について検討します。

5. 労働力の視点転換と労働政策の構造問題
本章では、第4章で整理したAI・AXによる労働力構造の変化を前提に、労働力の捉え方そのものを転換し、そこから浮かび上がる労働政策の構造問題を整理します。
人口減少社会においては、労働力を単に増やすという発想では対応できず、どのような視点で労働を捉えるのかが決定的に重要となります。
ここでは、労働力の視点転換を踏まえ、働き方・雇用・労働政策の構造的な問題を検討します
5-1 働き方の再設計|前提となる労働モデルの転換
本節では、従来の働き方の前提がどのように崩れ、どのような新しい枠組みが必要になるのかを整理します。
ここでのポイントは、働き方の多様化を単なる現象として捉えるのではなく、構造的変化として位置付けることです。
1)フルタイム・長時間労働モデルの限界
従来の労働モデルは、フルタイムで長時間働くことを前提として設計されてきました。
このモデルは、高度経済成長期においては有効に機能してきましたが、現在では現実との乖離が拡大しています。
女性の就業拡大、高齢者の就労、介護や育児の負担増加といった社会変化により、「常時フルタイムで働ける人」を前提とする制度は、多くの人を排除する構造となっています。
さらに、AIの導入により業務そのものが分解される中で、長時間働くこと自体が価値を生むわけではなくなっています。
むしろ、長時間労働は非効率である場合も増えており、労働時間を基準とする評価体系そのものが見直しを迫られています。
このところ、労働時間規制を撤廃する声が大きくなりつつあります。
働く人たちの中にも、物価高や厳しい生活を理由に、もっと収入が必要だから、とこの傾向を歓迎する声も上がっています。
しかし、これは問題の本質を歪めるものと言えるでしょう。
2)多様な働き方の構造化
現在進行している短時間労働、副業・兼業、在宅勤務、プロジェクト単位の働き方などは、単なる一時的な変化ではありません。
これらは、労働が機能単位に分解されることによって必然的に生じている構造的変化の側面を持ちます。
したがって、これらを例外的な働き方として扱うのではなく、標準的な生き方・働き方として制度化する必要があります。
例えば、複数の仕事を組み合わせて所得を得る形態や、特定の役割だけを担う短時間労働は、今後の労働市場において一般化していきます。
これを前提としない制度は、労働力の有効活用を避けているとも言えま。
3)働き方の「選択可能性」の確保
働き方の多様化が進んでも、それが自由な選択でなければ意味がありません。
現状では、非正規雇用や低賃金労働が「選択」ではなく「やむを得ない結果」として広がっている側面があります。
この状態では、労働力の質は向上せず、むしろ固定化され、格差化を拡大してしまいます。
したがって、制度として重要なのは、単に多様な働き方を認めることではなく、それを「選択できる状態」を確保することです。
これは、賃金体系、社会保障、労働時間規制、税制など、複数の制度を横断した再設計を必要とします。
5-2 働き方と失業の視点での転換
本節では、失業という概念そのものがどのように変化しているのかを整理します。
AI・AXの進展により、「仕事があるかどうか」と「所得があるかどうか」は一致しなくなりつつあります。
1)従来の失業概念の限界
従来、失業とは「働く意思があるにもかかわらず仕事がない状態」と定義されてきました。
しかし現在では、仕事そのものは存在していても、それが十分な所得を生まないケースや、AIによって人間の関与が最小限に抑えられるケースが増えています。
あるいは、AIスキルが必須で、その習得が困難な場合も大いにありえます
このため、「仕事があるかどうか」という基準だけでは、実態を捉えることができなくなっています。
2)労働と所得の分離
AI・AXの進展により、労働と所得の関係は徐々に分離しています。
具体的には、働いていても生活が成り立たない層が存在する一方で、労働以外の要素・要因によって所得を得る構造も拡大しています。
この変化は、労働市場の問題というよりも、所得構造そのものの問題として捉える必要があります。
3)「働けない」から「働かない」への転換
これまでの社会では、「働けない状態」が問題とされ、どう支援するかが主要テーマでした。
しかし今後は、「働かないことを選択する」という価値観や状況も現実的なテーマとなります。
また、AIによって必要な労働量が減少する中で、すべての人が従来と同じ形で働く必要はなくなります。
この変化は、労働観だけでなく、社会制度の前提そのものを変える可能性があります。
5-3 雇用形態・職業構造の再編
本節では、雇用形態および職業構造の変化を整理します。ここでのポイントは、既存の分類が機能しなくなっているという点です。
1)正規・非正規という区分の限界
正社員と非正規社員という区分は、長期雇用を前提とした時代の産物です。
しかし、働き方が多様化する中で、この二分法は実態を説明できなくなっています。
特に、副業やプロジェクト型労働が増加する中で、単一の雇用関係に依存するモデルは現実に適合していません。
2)労働力人口減少がもたらす人材囲い込みとしての正規雇用化
ただ、上記のような側面がある一方で、労働人口減少に伴う採用難・人材難から、短時間正社員制や非正規雇用から正規雇用への転換政策もここ数年、顕著な動きを見せています。
もちろん、誰でもいいということでは決してなく、人物とスキル評価に基づくものであることは言うまでもありません。
3)職務・役割ベースへの移行
今後の雇用は、企業への所属ではなく、担う役割や機能によって定義される方向に進みます。
これは、同一人物が複数の役割を持つことを前提とする構造です。
例えば、一部は企業に所属しつつ、別の業務では独立した立場で働くといった形態が一般化します。
4)職業の分解と再構成
AIの導入により、職業は固定的なものではなくなります。
従来一つの職業としてまとまっていた業務は分解され、それぞれが別の形で再構成されます。
この結果、職業は「職種」ではなく「機能の組み合わせ」として捉えられるようになります。
5-4 労働政策・企業政策の転換点
本節では、国家および企業が果たすべき役割の変化について整理します。
1)国家の役割の変化
従来、国家は雇用創出や失業対策を中心とした政策を行ってきました。
しかし、人口減少とAIの進展により、この役割の見直しが必要になっています。
今後は、単に雇用を増やすのではなく、社会機能を維持するための労働力配置を設計することが求められます。
2)企業の役割の変化
企業もまた、従来のように人材を囲い込む存在から、必要な機能を外部と組み合わせる存在へと変化します。雇用関係は固定的なものではなくなり、プロジェクト単位や業務単位での連携が前提となります。この変化は、人材管理の考え方を根本から変えるものです。
3)政策の重点の変化
労働政策の重点は、就職支援から再教育・再配置へと移行します。特に重要なのは、労働力が不足する領域へと人材を移動させる仕組みの構築です。これは単なるスキル教育ではなく、制度的な誘導を伴う必要があります。
5-5 労働と所得の再接続
本節では、労働と所得の関係を再整理し、次章への接続を行います。
1)労働所得中心モデルの限界
従来は、労働によって所得を得ることが基本とされてきました。
しかし、労働量が減少し、AIによる代替が進む中で、このモデルは維持できなくなりつつあります。
特に、エッセンシャルワークの低賃金構造は、この限界を象徴しています。
2)所得構造の再設計の必要性
今後は、労働に依存しない所得の仕組みを含めた再設計が必要となります。
これは単なる再分配の問題ではなく、経済構造そのものの問題です。
どのように所得を生み出し、どのように分配するのかという設計が不可欠になります。
3)次章への接続
以上のように、働き方・雇用・政策はすべて転換点にあります。
この変化を踏まえると、労働力問題は経済問題を超えて、社会の基盤設計の問題として捉える必要があります。
次章では、この視点から、労働力問題を経済安全保障として統合的に整理します。

6. シン労働力2050への転換視点
本章では、第1章から第5章までで整理してきた労働力問題を踏まえ、「シン労働力2050」という視点から、その構造を統合的に捉え直し、今後の社会における労働力のあり方と方向性を明確にします。
ここでの目的は、単なる問題整理ではなく、人口減少とAI・AXの進展を前提とした新たな労働力像を、多面的かつ段階的に提示することにあります。
まず、労働力問題の構造的整理と社会基盤との関係を確認し、その上で労働の意味や個人の働き方の再定義へと視点を移します。
さらに、制度の前提崩壊と再設計の方向性を踏まえ、最後に時間軸に沿った政策体系として整理します。
本章は、構造・社会機能・個人・制度・政策を一体として捉えることで、労働力問題の転換視点を総合的に提示するものです。
6-1 労働力問題の構造的再整理
本節では、第2章から第5章までの議論を統合し、労働力問題の本質を再定義します。
1)労働力は「量」ではなく「構造」の問題
第2章で確認したように、労働力人口は長期的に減少していきます。
この流れは短期的に反転させることができないため、「労働力を増やす」という発想には限界があります。
また第3章で見たように、女性・高齢者・外国人による補完もすでに限界に近づいています。
この結果、労働力問題は単なる数の問題ではなく、「どのように労働を構成するか」という構造の問題として現れています。
2)労働力は「機能単位」で再定義
第4章で整理した通り、AI・AXの進展により、労働は職業単位ではなく機能単位で分解されます。
つまり、「職業としての労働」ではなく、「社会に必要な機能を担う行為」として再定義されます。
この変化により、従来の雇用や職業分類はそのままでは機能しなくなります。
3)労働力問題は所得問題と不可分
第3章および第5章で確認したように、労働力不足は単に人がいないからではなく、必要な仕事に対して適切な所得が設定されていないことによっても生じています。
特にエッセンシャルワークにおいては、この問題が顕著です。したがって、労働力問題は供給の問題ではなく、所得構造の問題としても捉える必要があります。
6-2 労働力と社会基盤機能の関係
本節では、労働力が社会基盤の維持とどのように結びついているのかを整理します。
労働力は単なる生産要素ではなく、医療、物流、インフラ維持といった社会機能を支える基盤的資源として位置付ける必要があります。
1)労働力は社会維持の基盤資源
経済安全保障は一般に、エネルギー、食料、資源などの安定供給を確保する能力として理解されます。
しかし、それらを実際に運用し維持するのは人間です。
したがって、労働力が不足すれば、どれほど資源や制度が整っていても社会は機能しません。
この意味で、労働力は「人的インフラ」として位置付ける必要があります。
2)労働力不足は機能停止リスクを生む
医療人材が不足すれば医療体制は維持できず、物流人材が不足すれば物資供給は滞ります。
また、インフラ保守人材が不足すれば、社会基盤そのものが劣化し、機能不全に陥ります。
これらはすべて、労働力問題がそのまま安全保障問題であることを示しています。
3)労働力配置は国家戦略になる
労働力が限られている以上、どの分野にどれだけ配置するかは政策判断の問題にもなります。
これは単なる市場の結果ではなく、社会全体としての優先順位の問題です。
この段階で、労働力問題は社会基盤全体の維持に関わる問題として位置付けられます。
6-3 労働力配置と社会機能の優先順位
本節では、人口減少とAI・AXの進展を前提に、社会が維持すべき機能をどのように見極め、限られた労働力をどの領域に配分するのかを整理します。
ここで扱うのは「制度」ではなく、あくまで社会の現実的な機能とその優先順位です。
どの機能を維持し、どの機能を縮小・再編するのかという選択は回避できず、その判断が社会の持続可能性を左右します。
1)維持すべき基幹機能の特定
医療、介護、食料供給、エネルギー供給、物流、インフラ維持(電力・水道・道路・通信)、基礎教育などは、社会の存続に直結する基幹機能です。
これらは需要が景気に左右されにくく、停止すれば直ちに生活の安全が損なわれます。
したがって、まずはこれらの機能を明確に定義し、優先的に労働力を確保することが出発点となります。
加えて、防災・減災、保守点検、地域医療・在宅ケアなど、平時には見えにくいが有事に不可欠な機能も含めて把握する必要があります。
基幹機能の特定は、単なる産業分類ではなく、生活維持という観点で再定義することが重要です。
これらに共通なのは、エッセンシャルワークの性質を持っていることとも言えます。
2)縮小・再編を前提とする領域の見極め
一方で、過剰サービスや低付加価値領域、重複的な業務構造は、人口減少下では維持が困難になります。
ここで重要なのは、単に「不要」と切り捨てるのではなく、機能を統合・簡素化・デジタル化することで、必要最小限の形に再編することです。
例えば、店舗の過密配置、過度な対面手続、重複する管理業務などは、サービス水準を維持しつつも、運営形態の見直しによって労働投入を削減できます。
縮小と再編は対立概念ではなく、機能維持のための手段として位置付ける必要があります。
低付加価値領域の仕事が、すべて「不要」とすることなどありえず、むしろエッセンシャルワークの領域に入る仕事も多い現状があります。
充分配慮・判断すべき領域課題の一つです。
3)AIと人間の役割分担の具体化
AI・AXは、労働を「代替する」のではなく「再配分する」手段です。
定型処理、データ集計、予測、一次対応などはAIに任せ、人間は判断、責任、対人関係、最終意思決定に集中する構造が基本となります。
特にエッセンシャルワークでは、対人関係・信頼構築・個別対応が不可欠であり、完全な自動化は困難です。
したがって、AIは現場を置き換えるのではなく、記録・調整・補助を担い、人間の対人機能を支える形で組み合わせる必要があります。
この分担を明確に設計しない限り、AI導入は現場の負担軽減に繋がりません。
4)地域単位での最適配置
労働力の不足は全国一律ではなく、地域ごとに異なる形で現れます。
都市部ではサービス過多とミスマッチ、地方では基幹機能の担い手不足が顕在化しやすくなります。
そのため、労働力配置は全国一律の最適解ではなく、地域単位での最適化が必要です。
医療・介護の提供体制、物流網、教育機関の配置などを、人口規模と需要構造に合わせて再設計することが求められます。
ここでは、機能の集約や広域連携も現実的な選択肢となります。
5)配置の意思決定基準の明確化
最終的には、どの機能にどれだけの労働力を割り当てるかという意思決定が不可欠になります。
この判断は市場任せでは十分に行われず、社会としての優先順位が問われます。
安全性、継続性、代替可能性、地域への影響といった基準を明確にし、どの機能を優先するのかを可視化することが重要です。
ここでの整理が、次節以降で扱う制度設計の前提となります。
6-4 労働と制度の前提崩壊
本節では、雇用制度、社会保障制度、税制、教育制度といった基盤的制度がどのような前提で成立しており、その前提がどこで崩れているのかを整理します。
ここでは「どの制度が」「何を前提に」「どのように機能不全に陥っているのか」を具体的に明らかにします。
1)雇用制度の前提崩壊
正社員中心、長期雇用、企業内での能力形成というモデルは、「一つの組織に継続的に所属し、時間を提供することで価値を生む」ことを前提としています。
しかし、業務の分解と役割ベース化が進む中で、この前提は維持できなくなっています。
結果として、雇用に依存した保護や評価は実態と乖離し、複数就業や短時間労働、プロジェクト型の働き方を十分に包摂できません。
雇用制度は“例外処理”で対応する段階を超え、前提から見直す必要が生じています。
2)社会保障制度の前提崩壊
年金、医療保険、雇用保険は、「安定した雇用と継続的所得」を前提に、保険料負担と給付が設計されています。
しかし、所得の不安定化や就業形態の多様化により、負担と給付の関係が崩れ、制度の適用漏れや逆進性が拡大しています。
特に、複数就業者や低所得層では、保険料負担が重くなる一方で、給付が十分に機能しないケースが増えています。
制度が存在しても、現実には十分に機能しない層が拡大している点が問題です。
3)税制の前提との不整合
所得税・社会保険料は、労働所得を中心に設計され、単一雇用・安定収入を前提としています。
しかし、収入源の多様化、変動所得、デジタル収益の拡大により、所得の把握・課税のタイミング・負担の公平性に歪みが生じています。
また、扶養制度なども特定の所得構造を前提としており、多様な家族形態や働き方と整合しなくなっています。
税制は“個別の不具合”ではなく、前提そのものの再設計が必要な段階に入っています。
4)教育制度と労働の乖離
教育制度は「一定期間学び、その後働く」という直線モデルを前提としています。
しかし、スキルの継続更新が不可欠となる中で、教育と労働は分離できません。
再教育・リスキリングの機会が限定的であること、学習内容と実務の乖離が大きいことが、人材ミスマッチを固定化しています。
教育制度は単独ではなく、労働市場との接続を前提に再設計する必要があります。
5)共通する崩壊点の整理
以上の制度に共通するのは、「雇用されて働くこと」「労働が所得を生むこと」という前提です。
AI・AXと人口減少により、この前提が同時に揺らいでいます。
その結果、各制度の個別調整では対応できず、制度間の整合性が失われています。
ここに、構造的な制度再設計の必要性が生じています。
6-5 働くことと労働力の再定義
本章のここまでは、労働力問題を、<国家社会基盤>とも関連させ、本稿の目的ある<経済社会構造>の要素・政策課題として整理してきました。
本節では、ここまで整理してきた構造変化を踏まえ、視点を個人に移し、「働くこと」の意味と労働力の捉え方を再定義します。
ここでの再定義は、単なる価値観の問題ではなく、AI・AXと人口減少が同時進行する中で不可避となる構造的変化でもあります。
1)働きの成果の評価の再定義
従来の労働は、労働時間や投入量に基づいて評価されてきました。
しかしAIの導入により、同じ成果をより短時間で達成できるようになり、時間と価値の関係は崩れつつあります。
これにより、長時間働くこと自体が評価される構造は合理性を失い、成果や機能そのものを基準とした評価へと移行せざるを得なくなります。
この変化は、賃金体系や評価制度だけでなく、労働観そのものの転換を伴います。
2)労働力の再定義
労働力は従来、「働く人の数」として捉えられてきましたが、この定義はもはや十分ではありません。今後の労働力は以下のように再定義されます。
① 人数から機能へ
労働力は人数ではなく、どのような機能を担うかによって評価されるようになります。社会に必要な機能を維持できるかどうかが、労働力の本質的な指標となります。
② 供給から設計へ
労働力は市場に供給されるものではなく、社会としてどのように配置・活用するかを設計する対象となります。これは労働力問題が政策設計の領域に入ることを意味します。
③ 固定から流動へ
一つの職業や組織に固定されるのではなく、複数の役割を横断的に担う流動的な構造へと移行します。これにより、労働力は個人単位ではなく機能単位で再構成されます。
3)働きがいと自己実現の再定義
労働の意味もまた変化します。従来は、所得獲得と自己実現が労働の主な目的とされてきましたが、労働と所得が分離し始める中で、働くことの意味は多様化します。
社会参加、地域貢献、自己成長といった要素が相対的に重要性を増し、「働くこと=生計手段」という単一の定義は成り立たなくなります。
6-6 労働参加の再設計
本節では、これまで整理してきた労働力構造の変化を踏まえ、労働参加のあり方を再設計します。
まず、女性・高齢者・外国人・AIとの関係といった観点から、社会全体としての労働参加の枠組みを整理します。
その上で、こうした構造変化が個人の働き方や所得のあり方にどのような影響を与えるのかを検討し、一人ひとりがどのように働き方を選択し、再設計していくのかという視点へと接続します。
すなわち、労働参加を制度や構造の問題として捉えるだけでなく、個人の行動と意思決定の問題としても一体的に整理するものです。
1)女性・高齢者の再位置付け
女性や高齢者の労働参加は、これまで労働力不足を補う手段として位置付けられてきました。
しかし、この枠組みでは限界があることは第3章で確認した通りです。
今後は「不足を補う存在」ではなく、前提として組み込まれた労働力として再設計する必要があります。
そのためには、労働時間、働き方、役割の柔軟性を前提とした制度設計が不可欠です。
2)外国人労働の制度再構築
外国人労働は、特定分野の人手不足を補う手段として拡大してきましたが、制度的には限定的かつ暫定的な扱いにとどまっています。
人口減少が進む中で、外国人労働は補助的手段ではなく、労働力構造の一部として制度的に位置付ける必要があります。
そのためには、労働条件、社会保障、地域社会との関係を含めた包括的な制度再構築が求められます。
3)AIとの共存設計
AIは労働力を代替する存在であると同時に、労働力不足を補完する存在でもあります。
重要なのは、AIを単なる効率化手段として導入するのではなく、人間との役割分担を前提とした共存構造を設計することです。
定型業務はAIに任せ、人間は判断や対人関係に集中するという構造を明確にすることで、限られた労働力を有効に活用することが可能になります。
4)労働依存所得構造の限界
従来の社会は、「働くことによって所得を得る」という前提のもとに成り立ってきました。
しかし、AIによる代替や労働の分解により、この前提は維持できなくなりつつあります。
特に、エッセンシャルワークの低賃金構造は、労働と所得が必ずしも一致しないことを示しています。
この構造のままでは、必要な労働が維持できなくなる可能性があります。
5)社会参加の多様化
労働と所得の関係が変化する中で、社会参加の形も多様化します。
フルタイム労働だけでなく、短時間労働、複数就業、ボランティア、地域活動など、さまざまな形で社会に関わることが一般化します。この多様な参加形態を前提とした社会設計が求められます。
6)個人として働くことの再設計
人口減少とAI・AXの進展により、労働の構造そのものが変化する中で、働き方は制度や企業に委ねられるものではなく、一人ひとりが主体的に設計する対象へと変わりつつあります。
従来のように、教育を終えた後に一つの企業に所属し、その中で役割を与えられるというモデルは、すでに前提として成立しにくくなっています。
今後は、個人が自らの能力、関心、生活条件に応じて、どのような役割を担うのかを組み合わせながら働くことが大切と考えます。
すなわち、単一の職業や雇用形態に依存するのではなく、複数の活動や役割を通じて社会に関わる形が一般化していきます。
この中には、有償の労働だけでなく、地域活動やケア、ボランティアといった非市場的な活動も含まれます。
このように、働くことの意味も、単なる所得獲得から、社会参加・社会貢献や自己実現といった多面的なものへと広がります。
先述したように、働きがいの再定義は個人の内面的な問題にとどまらず、実際の働き方の選択にも反映される必要があります。
このように、これからの時代は、労働参加のあり方を制度として整備するだけでなく、個人が自らの働き方を主体的に捉え直し、再設計していくことが重要なテーマなります。
労働力の問題は、社会全体の構造問題であると同時に、個人の選択と行動の問題としても現れているのです。
6-7 制度再設計の方向性
個人視点で労働力を考えた後、本節では、第4節を受ける形で、そこで明らかになった前提崩壊を踏まえ、制度全体をどのような設計思想で再構築すべきかを整理します。
個別制度の改善ではなく、横断的な原理に基づく再設計の必要性について整理します。
1)労働中心から機能中心への転換
制度の基準を「誰がどのように働くか」から、「どの社会機能をどのように維持するか」へと転換します。
これにより、雇用形態や労働時間に依存しない設計が可能になります。
機能中心の視点では、エッセンシャル領域への安定的な労働投入が最優先となり、そのための制度的支援が位置付けられます。
2)労働と所得の再接続の再設計
労働と所得の関係が一対一で結びつかない以上、多様な経路で所得を確保する仕組みが必要になります。
特に、社会に不可欠でありながら市場賃金が低く抑えられる領域については、制度的に補完する設計が不可欠です。
ここでは、賃金調整、給付設計、負担の配分といった要素を組み合わせ、機能維持と所得保障を同時に満たす枠組みを検討する必要があります。
3)制度の横断統合と整合性の確保
雇用、社会保障、税制、教育を個別に最適化しても、全体として矛盾が生じれば機能しません。
したがって、制度間の整合性を前提とした横断設計が必要です。
具体的には、就業形態に依存しない保障、所得の把握と課税の一体化、学習と就業の循環設計など、制度を跨いだ連結が求められます。
4)持続可能性と適応性の両立
人口減少下では財政的持続可能性が不可欠である一方、技術や働き方の変化に対応できる柔軟性も必要です。
固定的な制度ではなく、条件に応じて調整可能な設計が求められます。
そのためには、指標に基づく見直し、段階的導入、フィードバックを前提とした運用など、制度そのものに更新機能を組み込む必要があります。
5)次段階への接続
以上のように、労働力問題は個別の政策課題ではなく、社会全体の構造設計の問題として捉える必要があります。
シン労働力2050という視点は、その再設計の出発点となるものであり、ここで整理した転換視点は、今後の制度設計や社会基盤の再構築において中心的な役割を果たすことになります。
6-8 政策体系としての方向性
本節では、これまでの議論を踏まえ、労働力構造の転換を現実の政策体系としてどのように段階的に実装していくかを、時間軸に沿って整理します。
短期・中期・長期の各段階において求められる対応を明確にすることで、構造変化への現実的な適応の道筋を示します。
近未来に向けての一つのモデル、例としての提案です。
1)短期(~2030年)
短期的には、労働力減少の進行を前提としつつ、現行制度の枠内で対応可能な施策が中心となります。
具体的には、労働参加率の維持・向上、就業環境の整備、AI・DX投資の促進などが挙げられます。
この段階では、急激な制度変更ではなく、既存構造の中での最適化が主な目的となります。
2)中期(2030~2040年)
中期的には、制度改革が本格化します。
労働市場の再編、教育・リスキリングの強化、雇用制度の見直しなど、構造的な変化に対応するための施策が必要となります。
この段階では、部分的な修正ではなく、制度間の整合性を意識した改革が求められます。
3)長期(2040~2050年)
長期的には、人口減少を前提とした社会制度が確立されます。
労働力構造の再設計が完了し、AIとの共存を前提とした社会が定着します。
この段階では、労働生産性の抜本的向上とともに、社会全体の構造転換が完了していることが前提となります。
本章で整理したシン労働力2050への転換は、一度に実現できるものではありません。
短期・中期・長期の段階に分けて整理すると、政策対応の方向性が分かりやすくなります。
| 時期 | 基本課題 | 主な対応 | 目指す状態 |
|---|---|---|---|
| 短期(~2030年) | 労働力不足の顕在化への対応 | 労働参加率の維持、就業環境整備、AI・DX投資促進 | 現行制度内での緩和と最適化 |
| 中期(2030~2040年) | 制度改革と労働市場再編 | 雇用制度見直し、教育・リスキリング強化、制度間整合 | 労働力構造の転換準備 |
| 長期(2040~2050年) | 人口減少前提社会の制度設計 | AIとの共存、社会機能維持、所得構造再設計 | シン労働力2050を前提とした社会運営 |
このように、シン労働力2050は単なる労働政策ではなく、人口減少社会における社会機能維持のための段階的な構造転換として位置付ける必要があります。

記事総括・結び
本記事では、前稿「シン雇用・賃金・所得2050」で整理した雇用・賃金・所得構造の議論を前提としつつ、その基盤となる「労働力」そのものに焦点を当て、「シン労働力2050」の課題構造を整理してきました。
従来の議論においては、労働問題は主として雇用や賃金の問題として扱われてきましたが、本稿で明らかにしたのは、それらの前提となる労働力の構造自体が大きく変化しつつあるという点です。
すなわち、
・人口減少は単なる労働供給の縮小ではなく、社会全体の構造変化を伴う
・AX(AI・自動化)の進展は労働の効率化にとどまらず、労働の内容と役割そのものを変化させる
・これらが重なることで、「誰が・どのように働くのか」という労働力の前提が揺らいでいる
という構造的転換です。
このとき重要となるのは、雇用や賃金の調整ではなく、労働力をどのように定義し直すのか、社会としてどのように労働力を支え、活用するのか、という設計思想の問題です。
本記事で整理した課題構造は、
・労働人口の減少
・労働力の質的変化
・AXによる役割再編
・労働参加の多様化
・制度との不整合
といった複数の要素が相互に連関する形で構成されています。
これらは個別に対処すべき問題ではなく、労働力という基盤そのものの再設計を求める構造課題です。
そしてこの再設計は、前稿で扱った雇用・賃金・所得構造と切り離されるものではなく、両者が一体となってはじめて「シン経済社会構造2050」の中核を形成します。
本稿は、そのうちの「労働力基盤」の側面を整理するものであり、今後はこれを踏まえて、雇用・所得・制度設計との接続をより具体的に検討していく必要があります。
(参考):この「シン安保2050」政策シリーズは、以下の三層構造体系に基づき作成・運営しています。
| 1. 国家社会基盤シン安保 | 2. 生活社会基盤シン安保 | 3. 経済社会構造シン安保 |
|---|---|---|
| ① エネルギーシン安保 | ① 人口・少子高齢化・世代シン安保 | ① 雇用・労働/賃金・所得シン安保 |
| ② 資源シン安保 | ② 結婚・家族・世帯シン安保 | ② 労働力シン安保 (外国人労働・AI代替・人材育成・労働保険等シン安保含む) |
| ③ 国土・自然環境・防災シン安保 | ③ 出産・子育て・保育シン安保 | ③ 経済安全保障シン安保 |
| ④ 公共インフラシン安保 | ④ 教育・スキリング・生涯設計シン安保 | ④ 産業経済・企業格差シン安保 (中小企業シン安保含む) |
| ⑤ 食料シン安保 | ⑤ 医療・健康・公衆衛生・介護シン安保 | ⑤ 金融・資本市場・税制シン安保 |
| ⑥ 財政シン安保 | ⑥ 社会保障シン安保(年金・生活保護・障害者福祉シン安保含む | ⑥ AI/AX・デジタル経済・イノベーションシン安保 |
| ⑦ 先端技術シン安保(情報・デジタル情報リスク・サイバー統治シン安保含む) | ⑦ 地方自治・地域社会生活シン安保 (都市・地方生活シン安保含む) | ⑦ 企業統治・事業経営・CXシン安保 |
| ⑧ 防衛・外交シン安保 | ⑧ 治安・情報市民社会・AI社会シン安保 | ⑧ 貿易・観光シン安保 |
| ⑨ 統治制度(政治・立法・行政・司法)シン安保 | ⑨ 日常生活シン安保 (消費・居住・健康・移動他) | ⑨ グローバル経済シン安保 |
| ⑩ ベーシックインカムシン安保 | ⑩ ベーシックインカムシン安保 | ⑩ ベーシックインカムシン安保 |


