教育無償化の効果と課題:日経『やさしい経済学』から考える高校教育改革の本質
日経の経済教室ページの小論欄「やさしい経済学」から学ぶシリーズ。
前回、
所得格差と機会の不平等|日経「やさしい経済学」小論をどう読むか – ONOLOGUE2050
この記事において、所得格差と機会不平等対策として、「教育」の重要性に着目すべきことを述べました。
この小論の後の「やさしい経済学」のテーマが、『教育無償化の効果と課題』。
無償化についてが、その論考の軸です。
それが、所得格差問題とも、機会平等問題とも、関連していることはいうまでもないでしょう。
今回は、2026年1月28日から同2月6日までの8回シリーズ、小入羽秀敬帝京大学教授による同テーマを取り上げます。
※小入羽秀敬(こにゅうば・ひでゆき)帝京大学教授:東京大学博士(教育学),専門・教育行政学)
当記事のURLは、記事末に添付しました。(但し、有料会員だけがアクセスできます。ご了承ください。)
その小論シリーズを取り上げます。
教育無償化の効果と課題:日経『やさしい経済学』から考えるシリーズー5
はじめに
衆院選の自民圧勝を受けて、再スタートが切られる高市政権の政策取り組み。
その中の一つに、高校教育の無償化があります。
もちろん、私及び当サイトは、その政策には賛同します。
初めに、冒頭提示した「教育無償化の効果と課題」というテーマの日経連載小論を取り上げます。
しかし、無償化以前に取り組むべきことがある。
そちらが最優先。そう考えています。
それは、高校教育改革。
そのあり方の概要について、本稿後半で取りあげます。

「教育無償化の効果と課題」要約と総括(ChatGPTによる)
はじめに、日経の各小論の要約と総括を、生成AI、ChatGPTに要請しました。
以下がその回答です。
1.教育費を負担するのは誰か
シリーズはまず、「教育費は誰が負担するのか」という根本問題から始まります。
日本では長らく、義務教育は公費、それ以外は家庭負担が原則とされてきました。
しかし、高校進学率は98%を超え、大学等への進学率も約6割に達しています。
こうした現実の中で、高校や高等教育をもはや「個人の選択」とだけみなすことは難しくなっています。
2010年の高校授業料実質無償化、2020年の高等教育修学支援新制度の導入は、教育費負担が「私」から「公」へと徐々に移行していることを示しています。
しかし同時に、財源の確保、所得制限の是非、公私間の格差という論点が浮かび上がります。教育を個人への投資とみるか、社会の基盤形成とみるかによって、負担のあり方は大きく異なる。
それが第1回の問題提起でした。
2.幼児教育・保育無償化の意義
第2回では、2019年に始まった幼児教育・保育無償化が取り上げられます。
この制度は、人格形成の基礎を培う時期への投資という教育的意義と、少子化対策という政策目的の双方を持っています。
3〜5歳児の利用料無償化、0〜2歳児の非課税世帯への支援など、制度の枠組みが整理されます。
一方で、無償化により保育需要が増加し、保育士不足や施設整備の遅れが生じる可能性も指摘されます。
東京都の独自拡充策にも触れつつ、国と自治体の役割分担、そして自治体間格差の問題が提示されます。
3.無償化対象の線引きという問題
第3回では、高校無償化制度の設計とその改正過程が検討されます。
2010年に所得制限なしで始まった制度は、2014年に所得制限が導入され、2025年度から再び撤廃されることになりました。
制度の変遷は、平等と財源制約の間での政策判断の揺れを示しています。
また、授業料は無償であっても、制服代や通学費などは対象外であるという現実があり、「どこまでを無償とするのか」という線引きの問題が残されていることが指摘されます。
4.私立高校実質無償化の経緯
第4回では、私立高校への支援制度の拡充過程が整理されます。
国の就学支援金と都道府県の上乗せ補助という二階建て構造のもとで、年収590万円未満世帯については実質無償化に近づく制度設計が進められました。
国の制度拡充と自治体の独自補助が重なり合いながら制度が形成されてきた経緯が描かれます。
5.分かれる自治体の政策判断
第5回では、2020年度改正後の自治体の対応が分析されます。
国の支援拡充により、自治体の財源配分の余地が変化しました。その結果、授業料補助の所得制限緩和を優先する自治体もあれば、費目拡充を選ぶ自治体もあります。
私立高校支援をめぐる地域差は拡大し、隣県との比較が新たな不満を生む構図も示されます。
6.公立高校入試に与える影響
第6回では、東京都や大阪府の私立高校無償化拡充が、公立高校の志願動向に与える影響が検討されます。
志願倍率の低下や定員割れの増加といった現象が紹介されますが、同時に少子化の影響も大きく、単純に無償化の結果と断定することはできないと慎重な姿勢が示されます。
7.就学機会保障と限られた財源
第7回では、無償化を理念としてどう位置づけるかが論じられます。
就学機会の保障という観点からは、所得制限撤廃には一定の合理性があります。
しかし、財源が有限である以上、再分配の観点からは一律補助ではなく所得に応じた設計が必要だという議論が展開されます。
平等と効率、理念と財政制約の間での政策判断が中心論点となります。
8.高等教育でも支援が拡充
最終回では、高等教育修学支援新制度が取り上げられます。
給付型奨学金と授業料減免を柱とする制度は、当初は低所得世帯を中心としていましたが、近年は多子世帯や中間層へと拡張されています。
しかし、所得基準をわずかに超えるか否かで支援の有無が分かれる「崖」の問題が依然として残されています。
小論シリーズ自体の総括
本シリーズは、教育無償化政策をめぐる制度設計とその拡充過程を丁寧に整理したものでした。
幼児教育から高校、私立・公立の関係、さらに高等教育まで、対象を段階的に広げながら、国と自治体の役割分担、所得制限の設計、財源配分の問題を中心に論じています。
一貫しているのは、
「無償化をどのように制度として設計するか」という問いです。
その意味で、本シリーズは、教育無償化の理念や教育内容の変容よりも、政策の枠組みと財政的持続可能性に焦点を当てた論考であったといえるでしょう。

「教育無償化の効果と課題」要約・総括から考える高等学校改革のイメージ
無償化の財源と分配論に終始した小論
1.教育費を負担するのは誰か
2.幼児教育・保育無償化の意義
3.無償化対象の線引きという問題
4.私立高校実質無償化の経緯
5.分かれる自治体の政策判断
6.公立高校入試に与える影響
7.就学機会保障と限られた財源
8.高等教育でも支援が拡充
以上のように、結局このシリーズは、無償化をどのように行うか、というテクニカルな論考と整理に終始していました。
元々その方針に則っての論述だったので当然でしたが。
しかし、これは非常に残念な結果で、表題に付いた「効果」には、踏み込むことなく終わってしまったのです。
踏み込めないですよね。
そこでの効果は、誰が負担し、そのことで誰が利益を享受できるかというレベルの「効果」測定になってしまうでしょう。
おかしな話です。
財源と支出方法(配分方法)のみが課題で、無償化で何をめざすのか、何を目標とするのかが曖昧というかは不明です。
単に、教育(保育)の機会均等、というレベルのものならば、財源を誰が負担するか、などは、本質的には問題にはなりません。
それは、小中学校が義務教育であることと同次元の話とすればそれで済むこと。
「限られた財源」という前提は、あまり意味がないのです。
教育方針と管理責任は国|明確な憲法規定に拠る
ある意味、この程度の無償化実施方法論は、特別の研究者・学者に依存する必要はなく、教育行政が明確に方向・方法を決めればよいだけのことでしょう。
はっきりしているのは、教育の基本方針である「教育基本法(第4条1)」は、憲法第26条の規定がその礎。
従い、その費用は、国が負担すべき者であり、自治体は、その運営を受託しているという関係・位置づけです。
参考①:〈日本国憲法 第26条〉
1 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
参考②:<教育基本法>
(教育の機会均等)
第4条 すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。
(学校教育)
第6条 法律に定める学校は、公の性質を有するものであって、国、地方公共団体及び法律に定める法人のみが、これを設置することができる。
2 前項の学校においては、教育の目標が達成されるよう、教育を受ける者の心身の発達に応じて、体系的な教育が組織的に行われなければならない。この場合において、教育を受ける者が、学校生活を営む上で必要な規律を重んずるとともに、自ら進んで学習に取り組む意欲を高めることを重視して行われなければならない。
高校進学率が98%超という現実|高校教育義務教育化は不要だが、その機能は持つことに
ここからいきなり高校教育が義務教育に進化発展させる必要はないと思います。
ここで、仮に、ほぼ全員進学を前提とした教育無償化は、極めて有意義なこととしてよいでしょう。
その意義と波及効果・期待効果は、こじ付ける必要がなく、社会経済的に非常に大きなものになるでしょう。
ただ、その経済的効果がどの程度見込める、という、定例・恒例の試算は、さして意味がないと考えます。
やりたい研究者みゃるべきと考える研究者は多いでしょうが。
しかし、すべて試算であり、分析手法は従来のモデルの域はでないでしょう。
そして実際のところは分かるはずもないのです。
変数である環境も諸条件も、時間とともに変化するもの。
仮に分析検証できるとしても、10年・20年・30年後のこと。
それでさえも、複合的な要素・条件に基づくものであり、決してEBPMの材料にはなりえないのです。
保育園義務化は、実施・実現へ
この小論の第2回で提示された、幼児教育・保育無償化。
これは、夫婦共働き社会化の必然として、ニーズとして、3歳以上の義務保育・教育と無償化は実現すべきと考えています。
対象から外れますが、0歳児から1歳児の保育・養育のために、母もしくは父の育児休暇を1年(希望者は2年)として、その間の賃金の一定レベルで保障する制度を構築すべきと考えます。
不可避の財源問題対策の方向性
高校無償化も保育無償化も、財源問題は、現在の義務教育制の財源と同次元のものとして扱うべきであり、議論の必要・余地がないのです。
とはいっても、必ず「財源どうする」議論は不可避です。
この時、国債発行にも頼らず、富裕層への増税を進めるでもない方法として、通貨発行権に基づく、教育特別会計制度の構築に拠ることを今回は提示しておくにとどめたいと思います。
いずれ考察と提案を深めたいと考えます。
その他の小論課題は、ほとんどが、学校区分・学校の性質に応じた無償化のテクニカルな課題。
そのあり方を本稿では重視していないので、本稿の目的である課題に進めたいと思います。

無償化の前に行うべき高校教育改革の軸と目的・目標
単純に「教育格差」や「所得格差」とそこから発生する「機会格差」の是正・改善を図る。
単純と言ってはいけないですね。
その重要な課題解決が、無償化で、一掃されるのか?
とてもそんなイージーなものではないでしょう。
その理由が、これも単純に、というか短絡的に「労働力不足」を要因とするものでないことも当然です。
また、その本質を考えると、少子化対策や子育て支援政策の一環と位置付けることもおかしなことです。
基本は、個人個人の生き方・働き方の問題。
その軸を形成し、強く影響するのが「教育」のあり方です。

何のための高校か、何のための無償化か
となると、というか、やはり、無償化以前に、無償化した高等学校とは、どういう性格の、何を目的とした学校なのか。
その問いを初めに提起し、その議論と内容づくりこそ、先行して取り組むべきことが、はっきりしています。
高校は、遊びの場ではなく、人間形成というきれいごと?のための場でもありません。
社会的存在としての個々人の生き方・働き方を考え、選択し、そのために基礎から応用までを学ぶ機会としての場。
国という社会の総体が、国民の付託を受けて提供する、新しい社会的高等教育機能をもつ学校に変革すべきと考えます。
生き方・働き方の基礎も当然含み、「リベラルアーツ」のカリキュラムが必修化されることも言うまでもありません。
こうして、新しい高等学校は、無償化する意味・意義がはっきりとしてくるでしょうし、むしろ無償化すべきことが認識できるかと思います。
リベラルアーツとは
**リベラルアーツ(liberal arts)**とは、
「特定の職業のための専門教育」ではなく、
自由に考え、判断し、社会の一員として主体的に生きるための基礎教養をさします。
言い換えれば、初期大学教育にも当たる、新たな学校改革をイメージすることがふさわしいと考えています。
高校教育の最大の目的とは?|AI時代・AI社会に生きる、働く
高校教育の最大の目的は、これからの自分の生き方・働き方を考え、そのための何を学ぶかを考え、選択し、実践する。
そこにあると考えます。
特に、AI社会が進行、進化・深化するこれからを考えるのが必須。
その前提で、以下の記事を、もう一つのWEBサイト、LIFE STAGE NAVIで公開しています。
⇒ 【AI時代の羅針盤】学歴に依存しない「生き方・働き方」へ!個人のキャリア変革と具体的備え – 4ページ目 (4ページ中) – Life Stage Navi
高校教育改革、その方針・方向性、私案
同記事では、高校教育改革について具体的に論じてはいません。
該当するページのテーマは、
「4.個人はシンAI社会時代の日本の労働市場と働き方変革にどう備えるか」。
その中から、以下一部引用しました。
1)AI時代のキャリアクライシス:大卒・学歴依存から「スキル依存」への転換
2)創造性・共感性・倫理:人として、個人・個性の価値へのシフト・回帰
3) 「手に職」という原点回帰とAI共創:非大卒キャリアの新たな価値創造
と展開した、3)において、こんなことを書き記しました。
・熟練スキルとAIの融合による「手に職」「技能」の復権・回帰
AI時代は、知識労働の価値を相対的に下げると同時に、「簡単に自動化できない現場の熟練スキル」の価値・必要性を再認識させています。
米国でブルーカラー職が再評価されているように、日本でも、配管工、大工、熟練の製造技術者など、現場での非定型な判断と手作業を伴う「手に職」の重要性は高まっています。
これは、単なる「復権」ではなく、AIを前提とした「手に職」「技能」という原点回帰です。
原点回帰ですが、現代の感覚や近未来への有効活用という視点を持ちたいものです。
この技能・技術系の課程を高校教育改革の重点課題として、組み入れることを提案します。
そして、続いての以下の記述についても。
・日本の伝統工芸やポップカルチャーとAIとの統融合:
陶芸、漆器、漫画、アニメといった日本の文化的な独自資産をAIの基盤データとして学習させ、新しいデザインの創出や、制作プロセスの革新(例:自動着色、素材提案)に活用する。
こうした個人の創造性と市場の拡張を目指す生き方・働き方は、これから一層求められ、価値創出に結びつくと考えます。
・キャリアの選択肢の多様化と伝統工芸分野の専門校設置:
大学進学にこだわらず、職業訓練や専門学校でAIと融合する技術(例:データセンター管理、AI活用の設備保全)を身につけることが、高付加価値なキャリアを築く道の一つとなります。
前項とこの項の観点から、日本の大学や高専、いや高校レベルでも、伝統工芸・伝統文化技能分野の専門校が開設され、無償化されることが望ましいと考えます。
もちろん、この分野でのAIの活用・貢献も含んでのことです。
AI社会・AI時代と関連しての考察。
そして超知能時代も想像・想定しての考察。
当サイトとLIFE STAGE NAVI にもいくつかの論考記事があります。
関心をお持ち頂ければ、WEbサイトをチェックして頂ければと思います。
もちろん、今後も教育問題について、一層具体的に考察と記事執筆に取り組んでいきます。
そして、この考えを具体化した試みとしての、高校教育改革案。

AI時代の逆転キャリアと高校教育改革試案
この表題に
「人材供給デザインとしての「技能価値社会」への転換点」
という副題を配した、高校教育改革を直接的なテーマとした以下の記事を、当サイトで公開しています。
⇒ AI時代の逆転キャリアと高校教育改革|人材供給デザインとしての「技能価値社会」への転換点 – ONOLOGUE2050
その第4章のタイトルが、
「人材供給」対策としての教育制度改革のあり方
―― 逆転キャリアを可能にする「高校教育改革」を中核に ――
そして、その章の構成は、以下のようになっています。
1)学歴中心の教育モデルの限界
① 「とりあえず普通科・とりあえず大学」進学の行き詰まり
② 地方産業・生活インフラを支える技能人材が足りない
③ 高校・高専・大学が地域の担い手を十分に育てていない構造
2)「技能・専門性」へ教育軸を移すための政策課題 ―― 高校段階での専門技能・エッセンシャルワークコースの本格導入 ――
① 高校段階での専門技能コースの本格的導入
・<観光・ホスピタリティ・調理コース>
・<伝統工芸・クラフト&デザインコース>
・<建築・建設・インフラ保全コース>
・<革新的農業・漁業・林業・畜産コース>
・<介護・福祉・医療アシスタントなど、人を支えるケアコース>
② 高校段階から「AIリテラシー+手に職」をセットにする
③ 高専・専門学校を「地域産業の中核キャンパス」に
④ 都道府県単位の「中核高校+サテライト高校」ネットワーク構想
3)専門技能職を「高収入・高付加価値」領域へ引き上げる国家戦略:最低年収500万円は“技能価値社会”への転換点
① 技能・技術職を「誇りある高収入キャリア」として再定義する必要性
② 国家目標としての「専門課程卒業者の最低年収500万円」設定
③ 高付加価値を生む技能領域の具体例
④ 技能価値を「賃金」として正当に評価するための政策手段
⑤ 専門技能の高収入化がもたらす3つの構造転換
4)AI時代の文理融合型カリキュラムの構築―― 高校1年「共通基礎+AI・キャリア基礎」とPBL ――
① 高校1年を「共通基礎+AI・キャリア基礎」の年にする
② PBL(Project Based Learning:プロジェクト型学習)と「現場×AI」授業で、現実世界と接続する
③ 大学を「AI・データリテラシー+職能デザイン」の場へ
こうしたカリキュラム、プログラム、システム群に加えて、先述した「リベラルアーツ」のコースが、その基盤として設定・形成されることになります。
以上の構成の中身・詳細は、以下のリンクで、直接閲覧できるページに行くことができます。
ぜひご覧になってください。
⇒ AI時代の逆転キャリアと高校教育改革|人材供給デザインとしての「技能価値社会」への転換点 – 4ページ目 (4ページ中) – ONOLOGUE2050
賛同いただける点がありましたら、ぜひ、皆さんの媒体や関心をお持ち頂けそうな組織や人々でシェアして頂ければと思います。
なお、教育関連新書としてお薦めしたいのが、以下の2冊。
教育格差問題を考える上で格好の書と思います。
*『教育格差 –階層・地域・学歴』(松岡亮二著:ちくま新書・2019/7/5刊)
*『教育は何を評価してきたのか』(本田由紀著:岩波新書・2020/3/21刊)

まとめ
今回取り上げた日経「やさしい経済学」小論シリーズ「教育無償化の効果と課題」は、幼児教育から高校、高等教育に至るまで、無償化政策の制度設計と拡充過程を丁寧に整理した連載でした。国と自治体の役割分担、所得制限のあり方、財源配分の構造、公私間のバランスといった論点は、現実の政策運営において避けて通れない重要課題です。その意味で、本シリーズは、教育無償化をめぐる現在地を把握する上で有益な整理であったといえます。
しかし同時に、無償化の「効果」とは何かという本質的な問いは、制度設計の議論の陰に隠れてしまった印象も否めません。誰が負担し、どの層がどれだけ支援を受けるかという配分の問題は重要ですが、それだけでは、教育政策の最終目標には到達しません。無償化は手段であって目的ではないからです。
本稿で繰り返し述べてきたように、問うべきは「何のための高校か」「何のための無償化か」という点にあります。高校進学率が98%を超える現実の中で、高校は事実上、ほぼすべての若者が通過する社会的基盤となっています。その場で何を学び、どのような力を身につけ、どのような生き方・働き方を選択できるようにするのか。そこが明確になって初めて、無償化の意味も、社会的意義も、よりはっきりと浮かび上がるはずです。
AI時代・超知能時代を見据えれば、知識の詰め込みだけではなく、リベラルアーツを基盤とした思考力、そして技能・専門性を高付加価値へと引き上げる教育モデルが必要になります。無償化は、そのような新しい高等学校像を支える前提条件として位置づけられるべきものでしょう。
教育無償化の議論は、財源論にとどまるべきではありません。教育の目的、国家の責任、社会の将来像と結びつけてこそ、はじめて本格的な政策論となります。本稿が、その視点から改めて高校教育のあり方を考える一助となれば幸いです。
本シリーズの他の記事ともあわせてお読みいただき、教育・社会保障・働き方・格差問題を横断的に捉えていただければと思います。今後も、教育問題について具体的かつ体系的に考察を深めていきます。

日経【やさしい経済学】「教育無償化の効果と課題」小論シリーズ・リスト
・(やさしい経済学)教育無償化の効果と課題(1) 教育費を負担するのは誰か 帝京大学教授 小入羽秀敬 – 日本経済新聞 (2026/1/28)
・(やさしい経済学)教育無償化の効果と課題(2) 幼児教育・保育無償化の意義 帝京大学教授 小入羽秀敬 – 日本経済新聞 (2026/1/29)
・(やさしい経済学)教育無償化の効果と課題(3) 無償化対象の線引きという問題 帝京大学教授 小入羽秀敬 – 日本経済新聞 (2026/1/30)
・(やさしい経済学)教育無償化の効果と課題(4) 私立高校実質無償化の経緯 帝京大学教授 小入羽秀敬 – 日本経済新聞 (2026/2/2)
・(やさしい経済学)教育無償化の効果と課題(5) 分かれる自治体の政策判断 帝京大学教授 小入羽秀敬 – 日本経済新聞 (2026/2/3)
・(やさしい経済学)教育無償化の効果と課題(6) 公立高校入試に与える影響 帝京大学教授 小入羽秀敬 – 日本経済新聞 (2026/2/4)
・(やさしい経済学)教育無償化の効果と課題(7) 就学機会保障と限られた財源 帝京大学教授 小入羽秀敬 – 日本経済新聞 (2026/2/5)
・(やさしい経済学)教育無償化の効果と課題(8) 高等教育でも支援が拡充 帝京大学教授 小入羽秀敬 – 日本経済新聞 (2026/2/6)
日経【やさしい経済学】「教育無償化の効果と課題」小論シリーズ・リスト
【「やさしい経済学」から学ぶシリーズ】
▼社会保障問題を取り上げた
「持続可能な社会保障」とは何か|インデクセーションが示す制度延命の現実 – ONOLOGUE2050
▼少子化対策の政策効果の限界を取り上げた
求められる少子化対策とは何か|政策効果の限界と結婚行動という本質 – ONOLOGUE2050
▼働き方と賃金問題を「ジョブ型」に焦点を当てた
賃金制度と働き方の変化|メンバーシップ型からジョブ型への転換をどう考えるか – ONOLOGUE2050
▼所得格差問題がテーマの
所得格差と機会の不平等|日経「やさしい経済学」小論をどう読むか – ONOLOGUE2050
このシリーズ、みなどこかで繋がっており、関連性・体系性を意識して読むと、面白いかもしれません。