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AI時代の逆転キャリアと高校教育改革|人材供給デザインとしての「技能価値社会」への転換点

日本は、世界でも類を見ないスピードで人口減少と高齢化が進む社会です。
AIやDXにどれだけ投資しても、「そもそも現場に立つ人」がいなければ、経済も社会も回りません。
ONOLOGUE2050の記事では、この問題を「供給力デザイン」という言葉で整理してきました。

ここでは、
・必需供給
・産業供給
・共通基盤
という3つのレイヤーから日本の供給力問題を構造的に捉え直し、「人材供給なき成長戦略」の危うさを明らかにしていきます。

① 必需供給(生活・医療・介護・物流)における逼迫

必需供給とは、
・食料
・住居
・医療・介護
・物流・インフラ
といった、生活の土台を支える供給力です。

介護現場では、既に人手不足が常態化し、一部地域ではサービス制限が起き始めています。
物流業界でも「2024年問題」に象徴されるように、ドライバー不足が深刻です。
医療においても、地方では医師・看護師不足が顕著になり、救急搬送の受け入れ困難が目立ちます。

これらはすべて「人材供給不足」の現象であり、AIやロボットがすべてを解決できる段階にはまだ遠いのが現実です。

② 産業供給(製造・IT・建設)の労働力不足

次に、産業供給です。
製造業、IT、建設、エネルギーなど、日本の経済成長や輸出競争力を支える産業でも、人材不足が深刻化しています。
特に、
・高度熟練技能を持つ製造現場の技術者
・インフラ建設・保守を担う建設技能
・DXを推進するITエンジニア・データサイエンティスト
など、「人が育つのに時間がかかる職種」が、じわじわと供給不足になっています。
ここが崩れると、輸出・投資・生産能力の低下という形で、日本の成長力そのものが損なわれてしまいます。

③ 共通基盤(教育・交通・通信)力の低下が生む“国家的レジリエンス危機”

共通基盤とは、教育・交通・通信・法制度・行政サービスなど、社会全体の機能を支える基盤です。
教育の質や機会の格差が広がれば、人材供給の偏りや不足をさらに悪化させます。
交通・通信インフラが脆弱になれば、地域間の格差も拡大します。

供給力を「GDPの伸び」だけで測ると、この共通基盤の劣化が見えにくくなります。
しかし、長期的にはここへの投資・人材配置こそが、国家のレジリエンスを決定づける要素になります。

① 労働市場のミスマッチを放置する政策の構造的欠陥

現在の日本の経済政策は、しばしば「成長戦略」や「投資促進」に焦点を当てます。
しかし、その裏側で、
・その成長を支える人材はどこから供給されるのか
・今の教育・訓練・移民政策で、本当に必要な人材は確保できるのか
という問いが置き去りにされています。
結果として、

「投資計画はあるが、現場に人がいない」という「絵に描いた餅」状態になりがちです。

② 「技能人材の不足」が最終的に成長率を抑制する仕組み

技能人材の不足は、
・プロジェクトの遅延
・品質の低下
・安全リスクの増大
・設備稼働率の低下
・コストアップ
・納期遅延
といった形で、最終的に成長率そのものを押し下げます。
AIやロボットを導入しても、それを設計・運用・保守できる人材が不足すれば、十分な効果は発揮できません。

③ 新自由主義型政策が見落としてきた“再分配としての教育”機能

「市場に任せる」「競争を促す」という新自由主義的アプローチは、一定の効果を持ちます。
しかし、教育や職業訓練の分野では、その限界が顕在化しています。
本来、教育は
・単なる「個人の自己責任で買うサービス」ではなく
・「機会の再分配」としての公的機能
を持つべきです。
ここを軽視すると、「学び直せる人」と「学び直せない人」の格差が、そのまま国家全体の供給力の格差につながってしまいます。

① 政府支出と制度設計の問題:介護・保育・医療の低価格設定

介護・保育・医療など、多くのエッセンシャルセクターでは、
・介護報酬
・保育料・補助金
・診療報酬
などが、事実上「公的価格」として設定されています。
この価格が十分に引き上げられない限り、現場の賃金も大きくは上がりません。

② 労働市場の供給構造:女性・高齢者への過度依存

日本のエッセンシャルワークは、女性と高齢者への依存度が高く、
・非正規雇用
・短時間労働
として組み込まれているケースも多いのが実情です。
「安く・柔軟に使える労働力」として依存し続ける限り、構造的な賃金改善にはつながりません。
ここを「専門性の高いプロフェッショナル」として位置づけ直し、処遇体系を組み直す必要があります。

③ 外国人労働力への構造的依存がもたらす中長期リスク

人材不足の“手っ取り早い解決策”として、外国人労働者に依存する道もあります。
しかし、それは
・言語・文化の違い
・定着率の問題
・国際的な人材獲得競争の激化
などを考えると、万能薬ではありません。

さらに、「安価な外国人労働力」を前提に制度を設計すると、

国内の人材投資が遅れ、長期的には競争力を失うというリスクも抱えます。

① AI・自動化を前提にした産業構造の組み替え

今後の供給力デザインは、「AIがない世界」を前提にするのではなく、

「AIがあることを前提に、どの仕事に人を配置するか」を考える必要があります。

・AIが得意な領域 → 最大限自動化し、人材を解放する
・人が担うべき領域 → 教育・訓練・処遇を集中的に強化する
という明確な仕分けを行い、産業構造と人材配置を同時にデザインしていくことが重要です。

② インフレ時代の人件費上昇を恐れない国家戦略

インフレ時代において、人件費上昇を「コスト増」とだけ見る発想からは卒業する必要があります。
むしろ、
・エッセンシャルセクターの賃金を引き上げる
・技能人材の処遇を改善する
ことは、

「供給力の確保」と「国内需要の底上げ」を同時に実現する投資と捉えるべきです。

③ 「人材投資」を国家安全保障と位置づける政策転換

最後に重要なのは、「人材」を単なる労働コストではなく、

国家安全保障そのものとして位置づける視点です。

医療・介護・インフラ・食料・エネルギー――。
これらを支える人材が十分に確保されていなければ、いかなる安全保障政策も絵に描いた餅です。

ここまで見てきたように、日本の供給力問題は、「人材供給デザイン」の欠如という形で表面化しています。
次の第4章では、この問題を根本から変えるための「教育制度改革」と「逆転キャリアを可能にする人材政策」の方向性を考えていきます。