はじめに|日経「供給力を高めるには」3論考をきっかけに
物価高が続くなかで、インフレを安定的に抑えるためには、需要抑制だけでなく「供給力」の強化が不可欠だと考えています。こうした問題意識もあり、日本経済新聞「経済教室」で供給力をテーマとした以下の3本の論考が掲載されたことに注目しました。
・(経済教室)供給力を高めるには(上) 資本蓄積重視への転換図れ 宮川努・学習院大学教授 – 日本経済新聞 (2025/11/17)
・(経済教室)供給力を高めるには(中) 自動化と人材育成の両立を 安藤至大・日本大学教授 – 日本経済新聞 (2025/11/18)
・(経済教室)供給力を高めるには(下) 長期投資へ対話を深めよ 加賀谷哲之・一橋大学教授 – 日本経済新聞 (2025/11/19)
3つの論考では、生産性向上や自動化、人材育成、長期投資といった重要な視点が示されており、供給力が多面的なテーマであることを改めて確認できます。
一方で、私が捉える供給力は、企業や労働市場にとどまらず、食料・エネルギー・資源、国際サプライチェーン、さらには国家的な投資戦略まで含む、より広い基盤から構成されるものです。
本稿では、まず第1章で3論考の要点を整理し、そのうえで私自身の問題意識に基づく供給力の枠組みを提示し、後半で今後検討すべき政策の全体像を概観していきたいと思います。
1.日経「供給力を高めるには」3論考の要点
本章では、2025年11月に日本経済新聞「経済教室」で掲載された、宮川努氏(上)、安藤至大氏(中)、加賀谷哲之氏(下)による3つの論考の要点を簡潔に整理します。
いずれも供給力というテーマを多角的に捉えた内容であり、本稿の議論を進める上で、重要な視点を与えてくれます。
1)宮川努氏(上)|資本蓄積の遅れと供給力の制約
最初の論考は、日本の供給力の弱さを「資本蓄積の不足」という観点から指摘しています。
日本は長年、労働力に依存した生産体制を続けてきましたが、少子化によってその前提が揺らぎつつあります。
宮川氏は次の点を強調しています。
・日本は米国や欧州と比べて資本装備率の伸びが弱く、生産性向上の余地が大きいこと
・インフレによる実質金利の低下が、国内投資を促す追い風になっていること
・デジタル投資が統計上十分に把握されておらず、供給力の実態が見えにくいこと
全体として、宮川氏の論考は「労働依存から資本投資への転換」を供給力強化の中心課題として位置づけています。
2)安藤至大氏(中)|自動化と人材育成の両立
2本目の論考は、日本の人手不足と人口減少を踏まえ、供給力維持のための生産性向上をテーマとしています。
ロボットやAIによる自動化の進展は短期的には効果がありますが、長期的な課題も生じます。
安藤氏の主な論点は次の通りです。
・自動化は短期的に生産性を高め、雇用を減らさずに産業全体の規模を拡大し得ること
・一方、自動化が進むことで若手が技能を習得する機会が減り、将来の供給力を担う中位スキルが失われる可能性があること
・AI活用は教育コストの削減に役立つ一方、思考力や判断力の形成を妨げる面もあり、使い方のデザインが重要であること
安藤氏の論考は「自動化」と「技能形成」の両立をいかに実現するかという、企業の現場に直結する課題を提起しています。
3)加賀谷哲之氏(下)|長期投資と無形資産の重要性
3本目の論考は、企業の投資行動とガバナンスに焦点を当てています。
日本企業の長期投資が国際的に低水準であることが、供給力の弱さに直結していると指摘します。
加賀谷氏の主張の中心は次の点にあります。
・日本企業はデフレ下の経営慣行から脱却できず、長期投資が伸びにくい構造にあること
・無形資産(知財、デジタル、人的資本など)の投資効果を測定する手法が未整備で、資本市場との対話が進みにくいこと
・長期投資を支えるためには、企業が自社の価値創造ストーリーを示し、ステークホルダーの理解を得る必要があること
この論考は、供給力強化には企業の長期的な投資姿勢が欠かせないという視点を提示しています。
4)3つの論考を通じて見える構図
以上3本の論考はいずれも重要な視点を提供しており、
・資本蓄積
・自動化と技能形成
・長期投資と無形資産
という三つの側面から、供給力の課題を整理しています。
しかし、これらは主として企業レベルの生産性や投資行動を中心とした議論であり、供給力を「国家の基盤」として広く捉えたものではありません。
本稿では、この3論考を出発点としながら、次章で供給力をより広い枠組み──食料、エネルギー、資源、サプライチェーン、国家的投資戦略など──として再構成していきたいと思います。

2.当サイトにおける日本の「供給力」の構造課題|「必需供給」「産業供給」「共通課題」の三層で捉える
第1章では、日経「経済教室」の3つの論考を手がかりに、日本の供給力をめぐる議論の現状を整理しました。
本章では、日本の供給力をどのように整理し、どこに弱点があるのかを明確にします。
本稿では、当初当サイトが構成した「供給力」を高めるための基本的な政策に、日経「経済教室」3論考が示した資本蓄積・自動化・投資の課題を反映させ、以下の3つの領域 で構成します。
・1)国民生活と国家維持に不可欠な「必需供給領域」
・2)経済・産業構造を支える「産業供給領域」
・3)両者を横断的に強化する「共通課題領域」
この3層構造とすることで、供給力の“何が問題で、何を改革するべきか”が明確になります。
1)及び2)の構成は、当サイトが供給問題の具体的な領域として示したもの。
3)も、当サイトの認識をベースに、日経論考を組み入れた形になっています。
ここで扱う供給力は、企業や労働市場に限られたミクロな概念ではなく、社会的・経済的な基盤そのものを指します。
将来の日本社会を構想するうえでの「シン社会的共通資本2050」「シン循環型社会2050」「シン安保2050」、そして所得保障の仕組みとしての「シン・ベーシックインカム2050」などを前提にした、よりマクロで長期的な供給力のイメージでもあります。
1)必需供給領域(生活必需品・食料・資源エネルギー)
■領域の位置づけ
最初の領域は、国民が生活するために絶対に欠かせない「必需供給」です。
この領域の弱体化は、物価高・生活不安・インフレを直接的に引き起こし、今後の シン・ベーシックインカム2050 や、シン社会的共通資本2050、広義の安保(=シン安保205)の基盤にも影響します。
この領域は以下の3つに細分化できます。
1-a)生活必需品の供給基盤
まず、最も基礎的な“日常生活を支える物資・サービス”の供給力です。
代表例を挙げると、以下があります。
・日用品(紙製品、洗剤、衛生用品など)
・医薬品・医療品(ジェネリック薬、不足しやすい薬剤)
・生活関連サービス(物流、通信、水道、電力、小売)
・低価格帯の耐久消費財(衣料、簡易家具など)
ここ10〜20年の日本は、デフレ+コスト削減競争+効率化過多の組み合わせによって、生活必需品の供給基盤が薄く・弱くなりました。
・医薬品の供給停止
・トイレットペーパーや紙製品の品薄
・物流の2024年問題による配送遅延
・単身高齢者向け食品・生活用品の価格上昇
・小売業における低利益率構造の限界
など、生活の根本部分での“供給不安”が増えています。
これは単に企業努力では解決しにくい構造であり、生活インフラそのものを社会的共通資本・社会的共用資本として再設計する必要があります。
1-b)食料・第一次産品の生産力・自給力
食料は生活必需品の一部ですが、その供給不安は国家存続や治安にも直結するため、独立した政策領域として扱うことにしました。
日本の食料供給の構造問題を挙げると以下があります。
・食料自給率は先進国で最低水準
・農家の平均年齢は70歳を超え、高齢化が深刻
・農地の荒廃・休耕地の増加
・肥料・飼料・種苗の輸入依存度の高さ
・農業収益性の低さによる担い手不足
・気候変動による収量リスクの増加
さらに、ロシア・ウクライナ戦争や中東情勢による小麦・油脂・肥料価格の高騰のように、グローバルサプライチェーンに依存した食料供給は極めて脆弱です。
これらは単なる「農業問題」ではなく、食料安全保障の構造問題でもあります。
日本は半世紀近く「安い輸入食料」に依存してきましたが、世界的には食料は地政学的資産=“武器化される資源”へ変化しています。供給力強化の核心政策となる領域です。
1-c)資源・エネルギーの自給供給力
最後の必需供給領域が「資源・エネルギー」です。
以下の一連の記事で示した通り、日本は世界でも珍しい “高度先進国でありながら、資源自給度が極端に低い国” です。
(参考)
⇒ レアアース危機を超えて ― 資源制約国家・日本の戦略的転換 – ONOLOGUE2050
⇒ 2050年グリーン水素社会実現への道のり:電力自給とペロブスカイト太陽電池が拓くシン日本社会のエネルギー戦略 – ONOLOGUE2050
その結果、
・電力価格の高騰
・LNG調達リスク
・石油・ガスの輸入依存
・再エネの比率停滞
・原子力議論の先送り
・産業移転・製造業空洞化
など、エネルギー制約が産業構造・生活コスト双方に影響します。
また、レアアース・レアメタル・重要鉱物においては、中国依存が40〜90%を占める品目も多く、サプライチェーンの「戦略的脆弱性」が際立ちます。
資源・エネルギーは
・生活必需品
・食料生産
・製造業
・デジタル産業
その他、すべての土台であり、供給力の最優先対象領域として扱うです。必要があります。
2)産業供給領域(製品・サービス・付加価値産業)
■領域の位置づけ
こちらは、日本経済の付加価値創出・輸出・成長力に関わる“産業供給”です。
生活必需ではありませんが、国としての豊かさを産み出すと共に、日本社会を維持・強固にする基盤となります。
2-a)製造業・加工業の供給力
長らく日本の強みだった製造業ですが、ここ20年の停滞は顕著です。
・国内投資の減少
・研究開発の低迷
・生産拠点の海外移転
・中小企業の廃業増加
・医療機器・半導体部品などの国内生産縮小
等が端的な状況例です。
製造業は、食料・エネルギー・日用品の供給とも密接に関連する“中核的供給網”であり、衰退は生活分野にも跳ね返ります。
また、日本企業の労働生産性はOECD平均を大きく下回り、技術革新の速度も低下しています。
2-b)サービス業・デジタル産業の供給力
サービス業はGDPの70%を占める主要産業に成長していますが、ここにこそ「生産性の低さ」「労働集約」の課題が集中しています。
以下がその例です。
・医療・介護・福祉の人手不足
・物流・交通の供給能力低下
・ホワイトカラー領域での自動化遅れ
・デジタル人材の慢性的不足
生成AI・ロボティクスなどは突破口となりえますが、スキル形成の断絶(新人が育たない問題)は、日経3論考(安藤教授)においての重要警鐘問題となっています。
2-c)国際サプライチェーン対応と技術基盤
日本は資源・食料・中間財の多くを輸入に依存し、製造業は国際分業に深く組み込まれています。
しかし現在、
・米中対立
・日中対立
・サプライチェーン分断
・地政学リスク
・関税競争
・国際物流の混乱
・半導体・AIインフラ覇権競争
など、国際環境は日本企業の安定供給を脅かす方向で加速し、かつ常に不安な状況にあると言えます。
さらに、国内での技術・デジタル基盤の立ち遅れが、産業全体の供給力を低下させています。
3)供給力強化の共通課題領域(技術・生産性・投資の2本柱)
供給対象の領域とは別に、すべての供給力を強化するために不可欠な“横断的インフラ”が存在します。
これが共通課題領域です。
3-a)低コスト化・生産性向上のための技術・規模・外為政策
ここは、当サイトが当初から設定する課題ですが、日経3論考(中編)の核心論点でもあります。
課題は次の3つに整理できます。
・技術革新(自動化・ロボット化・AI化)
・規模の最適化(統合、効率化、生産集約)
・外為政策(円高・円安局面の戦略的活用)
現場では「AIで新人が育たない」「中位スキルが失われる」などの問題があり、生産性向上とスキル形成の両立が大きな課題です。
技術だけの議論では不十分で、組織設計・教育設計とセットで行う必要があります。
なお、技術革新は、シン・イノベーション2050の中心的な課題でもあります。
3-b)公的・民間投資戦略(資本蓄積・長期投資の再設計)
日経3論考(上編・下編)で強調されたのが「投資不足」です。
・国内投資が先進国最下位
・企業の現預金は過去最高
・長期投資に対するインセンティブ不足
・無形資産投資・研究開発の停滞
・投資対効果を測定する経営管理手法の未整備
これらが供給力を弱める要因となっています。
資本蓄積は、労働力不足の時代において供給力の唯一のエンジンでもあるため、公民の役割分担(公的投資・税制・金融政策・民間投資)を再設計する必要があります。
以上のように、日本の供給力は
・必需供給
・産業供給
・共通基盤
の3層構造で捉えることで、それぞれ異なる課題と政策ニーズが浮かび上がります。
次の第3章では、この3層構造を踏まえて、供給力強化のための基本戦略を整理します。
そして続く第4章で、具体的な政策体系を提示していきます。

3.供給力強化のための基本戦略|供給力の多層構造を統合的に捉える
──「何を優先し、どんな順序で強化するのか」
第1章で日経3論考の論点を確認し、第2章では日本の供給力を3つの領域に再整理しました。
第3章では、それらの分析と作業を踏まえて 「供給力をどのような順序と視点で強化していくべきか」 を、基本戦略としてまとめます。
本章の目的は、次章の「具体的政策体系(第4章)」に進む前に供給力強化の“骨格となる考え方”を明確にしておくことになります。
1)必需供給の確保を最優先とする「ボトムアップ型戦略」
供給力を議論する際、しばしば“産業競争力”や“企業の成長”が焦点になります。
しかし、インフレ抑止や生活安定を最優先に考えるなら、最初に強化すべきは 生活必需品・食料・資源エネルギー で構成される「必需供給領域」です。
<基本戦略の考え方>
必需供給領域では、次の3つを優先します。
① 生活必需品の供給不安をなくす(医薬品・日用品・物流・水道・通信)
② 食料安全保障の再設計(自給力向上・国内生産の支え手確保)
③ 資源・エネルギーの自給度向上・供給安定化(電力・鉱物・水素・再エネ)
これらは“産業政策”ではなく、社会的共通資本・国家における社会経済運営のインフラ政策に近い位置づけになります。
波及効果は非常に大きく、
・生活コストの安定
・インフレ抑制
・地政学ショックへの耐性
・国民生活の安心感
・中小企業の調達安定
そして、いずれ詳しく提案する
・シン・ベーシックインカム2050の持続性
に通じます。
これらの土台は、すべて「必需供給の安定」から始まります。
必需供給を最優先とした“ボトムアップ型強化”が、供給力戦略の出発点となります。
2)産業供給の再編と強化による「国内付加価値創出力」の回復
必需領域が安定して初めて、GDPの大半を構成する産業供給の改革が本来の力を発揮できます。
特に、
・製造業の国内回帰
・サービス業の生産性革命
・国際サプライチェーンの再構築
・デジタル・AI基盤の整備
は、日本の成長力そのものを左右する要素です。
<基本戦略の考え方>
2つの柱で産業供給領域を再編します。
個別の課題例も挙げました。
① 基幹製造業・加工産業の国内供給力の底上げ
・研究開発の強化
・国内投資の促進
・中小企業の統合・広域連携
・部素材・半導体など戦略品目の再強化
② サービス業・デジタル産業の大規模生産性改革
・AI・自動化の本格導入
・DX人材の育成・再教育
・ホワイトカラー領域の業務再設計
・医療・介護・物流などの供給力拡大
これらを行うことで、国内で付加価値が生まれ、外需と内需の双方が強化される構造へと転換できます。
必需供給の安定を前提に、製造・サービスの両輪の再構築によって、日本の“稼ぐ力”を回復させることが戦略の第二段階になります。
3)共通基盤(技術・生産性・投資)の再設計による「供給インフラの底上げ」
必需領域・産業領域のいずれにおいても、供給力を押し上げるためには 共通の基盤が必要です。
これは個別産業の政策ではなく、供給力全体を支える“横断政策”です。
<基本戦略の考え方>
共通基盤の再設計は主に2分野です。
個別の課題例も挙げました。
① 低コスト化・生産性向上を可能にする技術・規模・外為政策の刷新
・AI、ロボット、IoT、自動化の導入支援
・中小企業の生産統合、共同化
・円高局面の輸入促進政策、円安局面の国内投資促進
・スケールアップのためのM&A政策
② 公的・民間投資の長期化・戦略化
・長期投資を促す税制改革
・政府系金融の役割拡大
・インフラ投資の国家戦略化
・企業の内部留保の成長投資化
・無形資産投資・人材投資の強化
共通基盤の再設計は、日経3論考で示された「資本蓄積の不足」「人材形成の断絶」などの警鐘を、供給力政策に“統合”するプロセスでもあります。
技術・生産性・投資という“横断基盤”を強化することで、日本全体の供給力の底上げが可能になります。
4)段階的強化と優先順位づけによる「政策ポートフォリオ設計」
供給力の領域は広く、多岐にわたります。
そのため 何を、どの順番で強化するか の政策設計が不可欠です。
<基本戦略の考え方>
次の順序を推奨します。
① 第一段階:必需供給(生活・食料・資源エネルギー)の安定化
② 第二段階:産業供給(製品・サービス)の競争力回復
③ 第三段階:共通基盤(技術・投資)の再設計・横断強化
この順序で政策を構築することで、“インフレに強く、ショックに耐え、成長を生む”供給力へ段階的に移行していきます。
政策の優先順位を構造的に整理することで、次章の政策体系に一貫性と現実性を持たせることができるでしょう。
但し、一つの段階をクリアしてから次の段階に進むということではありません。
同時進行で、連携を取りながら取り組むべき課題であり、単に、日常の社会生活上の優先度を比重化して記述したものとご理解ください。
第3章では、供給力強化のための基本戦略を4つの柱として整理しました。
・必需供給の最優先強化
・産業供給の再構築と競争力回復
・共通基盤の刷新(技術・生産性・投資)
・段階的かつ優先順位のある政策設計
これにより、日本社会がインフレに強く、生活・産業の双方を安定させ、持続的供給側から成長できる構造を築くための土台が整います。
次の 4章 では、この基本戦略を実際の政策体系として整理し、具体的な方向性と施策構造を示していきます。

4.日本社会の基盤をつくる供給力デザイン:総合的・体系的な政策の方向性
第1章と第2章では、供給力の構造と領域を整理し、第3章ではそれらを維持・強化するための戦略的視点を提示しました。
本章では、これらを総合し、2050年に向けた日本社会の「社会デザイン」として、供給力をどのように組み立てるべきかを描きます。
ここで示す内容は、「シン社会的共通資本2050」「シン循環型社会2050」「シン安保2050」「シンBI2050」といった、当サイトが追求する長期構想と深く結び付いています。
供給力とは、市民生活の安心を支え、社会の持続性を守り、将来世代の選択肢を広げるための“社会の背骨”であり、日本社会の価値と自立性を形づくる基礎だと考えています。
1)生活基盤としての供給領域の再構築
生活必需品、食料、資源・エネルギーの安定供給は、市民の毎日の暮らしに直結する、日本社会のもっとも基本的な供給力です。
この領域は、物価安定の根幹であり、「シン・ベーシックインカム2050」(以下「シンBI2050」)におけるベーシックインカムの水準設定を左右する重要な基礎でもあります。
生活基盤の供給力を再構築することは、同時に「シン社会的共通資本2050」における生活インフラ、「シン循環型社会2050」における第一次循環、「シン安保2050」における国民生活の安全保障のすべてを支える柱になります。
以下の三つを重点的に強化する必要があります。
これまでのおさらい・確認も兼ねているため、重複して論じる部分があることをご了承ください。
① 生活必需品の供給力とインフラの強靱化
医薬品・日用品・生活関連サービスなどは、市民の生命と生活の基礎を形づくります。
この領域は「シン社会的共通資本2050」の中核であり、災害時やパンデミック時にも途切れない供給網を整える必要があります。
物流・通信・小売などのインフラ整備も不可欠で、これらは社会の“血管”として機能します。
② 食料・第一次産品の自給力と循環の再構築
農林水産業は「シン循環型社会2050」における一次循環の要であり、日本社会の自給自足性とレジリエンスを決める領域です。農地の維持・集約、担い手の育成、資材の国内確保など、構造的な立て直しが求められます。食料供給は物価安定にも直結し、「シンBI2050」の基礎条件になります。
③ 資源・エネルギー供給の多元化と自立性の確保
レアアース・重要鉱物・燃料・電力などの基礎資源は、日本社会全体の「存在条件」そのものです。
これは「シン安保2050」の中心課題であり、技術(代替・回収・省資源)、調達(多元化)、供給網(送電網・水素供給網)のすべてを同時に再設計する必要があります。
当サイトで扱ってきたレアアースと水素に関する議論は、この領域の具体例です。
⇒ レアアース危機を超えて ― 資源制約国家・日本の戦略的転換 – ONOLOGUE2050
⇒ 2050年グリーン水素社会実現への道のり:電力自給とペロブスカイト太陽電池が拓くシン日本社会のエネルギー戦略 – ONOLOGUE2050
2)産業基盤としての供給領域の再編
製造業・サービス業・デジタル産業などの産業基盤は、日本社会の「稼ぐ力」と「付加価値」を生み、市民生活の豊かさと財源を支える領域です。
この領域は、「シン社会的共通資本2050」(産業基盤)、「シン・イノベーション2050」(技術基盤)、「シン安保2050」(経済安全保障)と深く結び付いています。
供給力の強化には、次の三つの視点が重要です。
① 製造業・加工業の国内供給力と価値創造の再生
重要部材や基礎技術を国内にどこまで保持し、どこを国際分業に委ねるのか、戦略的な再編が求められます。
これは「産業としての社会的共通資本」をどう設計するかという問題であり、同時に「シン安保2050」における経済安全保障の中核でもあります。
② サービス産業・デジタル産業の生産性と供給力の底上げ
医療・介護・物流・教育など、人口減少の影響が真っ先に現れる領域こそ「シン社会的共通資本2050」の重要部分です。
デジタル化、AI、自動化を用いた生産性向上は、供給力維持のための必須条件であり、同時に「シン・イノベーション2050」の実装の場でもあります。
③ 国際サプライチェーンと国内技術基盤の再設計
地政学リスクへの対応は、「シン安保2050」の主要テーマです。
特定地域依存の解消、多様な調達路の確保、国内生産との戦略的分担など、日本社会全体としての「つながり方」を再構築する必要があります。
これは供給力の強化であると同時に、日本社会の自立性を高める取り組みでもあります。
3)供給力全体を支える横断基盤の強化
生活基盤や産業基盤を支える裏側には、技術、人材、投資、規模、ネットワークなど、目に見えにくい「横断的な供給基盤」が存在します。
この領域は、すべてのシン2050構想を貫く“共通の背骨”であり、日本社会の将来選択肢を左右する中核的な要素です。
次の三つを横断基盤の柱として位置付けます。
① 技術・生産性向上と人材育成のための社会的投資
AI・ロボット・自動化・デジタルインフラなどの技術は、供給力の維持に不可欠です。
これを支える人材育成やリスキリングは、「シン社会的共通資本2050」の人的基盤であり、「シンBI2050」が掲げる「安心して学び続けられる社会」の実現条件でもあります。
② 規模とネットワークを活かした社会的連携構造の構築
広域連携、共同調達、共同物流、情報連携などのネットワークは、供給力の安定性を高める社会構造そのものです。
これは「シン循環型社会2050」の「循環網」とも対応し、日本社会を一つの大きな供給共同体として機能させるための設計です。
③ 公的・民間投資の役割分担と資本蓄積の再設計
供給力は単年度の採算で測れるものではありません。
インフラ投資、技術開発、人的基盤形成など、長期投資が不可欠です。
どこを公的領域が担い、どこを民間が担い、どのように誘導するのか。
これは「シン社会的共通資本2050」の中核であり、同時に日本社会の資本形成を再構築する議論でもあります。
まとめ|供給力とは、近未来の日本社会を形づくる“基底構造”である
本章では、生活基盤・産業基盤・横断基盤の三つの視点から、供給力を日本社会の基盤としてどのように体系的に組み立てるべきかを整理しました。
「供給力」とは、単なる生産量ではなく、日本社会がどのような価値を持ち、どの程度の自立性を保ち、どのような暮らしを将来世代に手渡すのかを決める「社会の設計思想」そのものです。
すなわち、「供給力の強化」は、日本社会が2050年に向けてどのような姿をつくるのかという根本的な課題と直結しているのです。
物価の安定も、暮らしの安心も、社会の持続可能性も、すべては供給力という基盤の上に成り立っています。
この「供給力デザイン」は、「シン社会的共通資本2050」「シン循環型社会2050」「シン安保2050」「シン・イノベーション2050」「シンBI2050」をつなぐ共通基盤であり、今後の記事ではそれぞれの供給領域をさらに深掘りし、具体的な制度設計・技術選択・投資戦略へと落とし込んでいく予定です。

本稿中頻出した「シン○○2050」の各論は、以下を参照頂ければと思います。
・2050年日本社会構想の基軸設計理念「シン安保2050」の意味と究極の使命 – ONOLOGUE2050
・2050年、日本社会の新たな羅針盤:『シン社会的共通資本2050』が拓く共生の近未来 – ONOLOGUE2050
・シンMMT2050:日本社会構想を支える新たな財政・貨幣システムの羅針盤 – ONOLOGUE2050
・シン循環型社会2050:日本の近未来へ導く持続可能で強靭な社会システムの羅針盤 – ONOLOGUE2050
・シン・イノベーション2050:日本の近未来を駆動する、包摂的で持続可能な社会変革の羅針盤 – ONOLOGUE2050

















